表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第二章 ロルディアの影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/254

第53話 影の異形、再び

 仮面の男は霧と共に姿を消した。


 足元に転がる仮面の破片と、残された魔力の残滓。わずかだが、確かに手応えはあった。だがそれ以上に、確信も得た。


「……あの男、ヴァルディスと深く繋がってる。スレイン丘陵は、やつらの拠点だ」


 俺の言葉に、ヴェルナーも頷く。


「ここまで鮮やかに現れ、撤退したとなると、この周辺に魔術陣か隠れ拠点があるのは間違いない。だが、今の戦力では索敵に限界がある。いったんギルドへ戻って、魔力探知や追跡に長けたメンバーを加えた調査班を再編成する」


 セリスは剣を収め、小さく息をついた。


「体力も充分ですし、確実な手順でいきましょう。私も準備は整えられます」


 全員がうなずき、帰還の準備を整え始めた——そのとき。


「……くる」


 ルナの耳がぴくりと動いた。ふさふさの尾を丸め、背を低くして震える。


 異様な気配と共に、黒い靄が地面から滲み出るように現れた。それは人の形を模した、だが明らかに人ではない何か。長く伸びた手足、顔のない影。——影の異形。


「しまった、逃げたんじゃない……!」


 ヴェルナーが素早く構える。が、異形は音もなく地を這い、まずはガルドに飛びかかった。


「っく!」


 ガルドの巨大な盾が異形の一撃を受け止めるも、重い打撃に身体ごと吹き飛ばされる。続いてミリアが風の足運びで横へ跳ぶが、異形の腕がかすめて鎧を裂いた。


 ヴェルナーも斬りかかるが、異形はその動きすら先読みしたかのように滑らかにかわし、逆に爪で肩口を切り裂いた。


 すぐに俺たちが飛び込む。


「エルン、ヴェルナーを!」


「了解……!」


 エルンは即座に精霊に呼びかける。


「光の精霊リュミエールよ。我が魔力を代償とし、彼を守る盾となれ——《聖域の閃壁セイクリッド・バリア》!」


 淡い金光の膜がヴェルナーを包み、異形の追撃を防ぐ。


「セリス!」


「いきます!」


 セリスの剣が異形の脇腹を切り裂く。さらに異形の連撃を受け流し、間合いを詰めて斬撃を叩き込む。だが、異形の身体はまるで液状の影のように切断を無効化しているかのようだった。


「効いてる……けど、浅い!」


 俺はすぐに水の精霊を喚び出す。


「水精レヴィアよ! 我が魔力を代償とし、粘性の鎧で絡めとれ——《流転のアクアオーブ》!」


 ぶよぶよと粘度の高い水球が異形を包み込み、足の動きを鈍らせる。異形はバランスを崩し、もたついていた。


「エルン、今だ!」


「はいっ——!」


 エルンが狙いを定め、詠唱を開始する。


「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし、聖なる光の矢を放て——《ルミナス・レイ》!」


 輝く光線が一直線にほとばしり、異形の胸部を貫いた。


「いくぞ……とどめだ!」


 俺は咆哮と共に詠唱した。


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、眼前の敵を消し飛ばせ——《蒼閃そうせん》!」


 青い斬光が閃き、エルンの魔法で弱体化した異形を打ち抜いた。


 その身体が、ひときわ強く震え——そして、影が吹き飛ぶようにして霧散した。


 地に膝をつきながら、ガルドが呻く。


「……生きては、いる……が、左腕が……」


「私も、肋骨が……ヒビくらいは……」


 ミリアが苦笑しながら腰を下ろす。


 ヴェルナーも腕を押さえながら呻いた。


「……だが、奴の狙いが見えたな。あの異形、エルフには一度も触れようとしなかった」


 俺とエルンは顔を見合わせる。


「……確かに。エルンにも、セリスにも、俺にも」


「おそらく、ヴァルディスはお前たちを実験体として温存している。捕えることはあっても、傷つけるなと命令されていたのだろう」


 ヴェルナーは静かに仮面の破片を見つめる。


「影の魔術……完成に近づいてるのかもしれん」


 帰還準備が整い、皆が背を向けようとした時、ルナが俺の隣にやって来た。


「……カイン」


「ん?」


「さっきの仮面のひと、いる場所……だいたい、わかった」


 俺は思わずルナの目を見つめた。そこには、確かな確信が宿っていた。


「本当か?」


 ルナはこくりと頷き、その尻尾が、ゆらりと風に揺れた。


「そこ、すっごく……こわい。気持ち、ざわざわする」


「……ありがとう、ルナ」


 俺はルナの小さな背にそっと手を置く。


 敵は確かにこちらを見ている。だが、こちらももう、追跡を始めている。


 被害は大きかったものの、俺は今回の作戦に手ごたえを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ