表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/255

第5話 知恵の証明

 レオナルドが見守る中、エルンストは静かに俺に向き直った。その瞳には、先ほどまでの刺すような鋭さに加え、純粋な鑑定者のような厳格さが宿っていた。


「では、賢者としての資質を問います。まず、あなたがカイラン様の知恵を継いでいるのならば、彼がかつて説かれた『賢者の理』について説明できるはずです」


(……『賢者の理』? そんなの聞いたこともないぞ)


 俺が内心で焦っていると、頭の奥でカイランの声が響いた。


『思い出せ。私の記憶の断片を辿るのだ』


 俺はカイランの記憶の断片を頼りに、自らの言葉で理屈を紡ぎ出した。


「『賢者の理』とは、すべての知識は固定されたものではなく、個々の経験と結びつき、変化し続けるものだ。知恵とは、そういうものだろう?」


 エルンストがわずかに目を細める。


「……確かに、カイラン様は似たような言葉を残されていました。ですが、それだけでは不十分です」


 彼女は俺を試すように続ける。


「では、次の問いを。この神殿には、ある秘密が隠されています。それを言い当ててみてください」


(秘密? そんなの知るわけが……)


『神殿の構造を思い出せ。お前の観察眼を使え』


 カイランの声に促され、俺はゆっくりと周囲を見回した。高い天井、整然と並ぶ石柱、壁に刻まれたエルフの紋章……。

 ふと、神殿の奥にある祭壇の背後、その壁の一部だけが、ほかとわずかに色合いが違うことに気がついた。


「あの壁の向こうだ。何か隠されている」


 俺の指摘に、レオナルドが驚いたように息を呑む。エルンストの目も、鋭さを増した。


「……なぜそう思われたのですか?」


「壁の色が違う。長い年月が経った神殿で、そこだけが異なるのは不自然だろう?」


 エルンストはしばらく俺を見つめた後、深く、そして静かに頷いた。


「……見事です。あの壁の奥には、カイラン様が遺した文書が眠る秘密の空間があります。その場所を知る者は、ごく限られているはず……」


 彼女は俺と、そして俺の後ろに立つレオナルドを交互に見やり、厳かに宣言した。

「魔法の素養、そして賢者に不可欠な知恵と観察眼。……認めましょう。これで、第一段階『資質の確認』は完了です。あなたは賢者の候補者たる資格を、最低限は満たしていると判断します」


 その言葉は、俺がこの森で一歩前に進んだことを意味していた。

 しかし、エルンストはすぐに続けた。


「ですが、これは始まりにすぎません。次にあなたを待つのは、我が森の伝統に則った『第二段階:古の賢者の試練』。真の賢者となるための、公式な儀式です」


 俺は息を呑んだ。ここで逃げることはできない。俺の異世界での運命は、今まさに試されようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ