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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第二章 ロルディアの影

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第47話 迫る影の手

 フェルシアの里を後にし、俺たちはヘルムガルド廃村へ向かっていた。森を抜ける道はまだ穏やかで、木々の間から差し込む朝陽が旅路を照らしている。背後でリゼリアが手を振り、「気をつけて」と見送っていた。


「ヘルムガルド廃村か……」


 俺は小さく呟く。


「未知の闇の魔術の痕跡が残っているって話だったわね」


 エルンが横で歩きながら答える。


「そうだ。それにエルフたちが誘拐された事件も絡んでいる。調査を進めれば、何か手がかりが得られるかもしれない」


 俺は視線を前へ向けた。


 セリスが興味深そうに問いかける。


「カイン殿、闇の魔術って具体的にはどんなものなのですか?」


「俺にも詳しいことは分からない。だが……魔力の流れや精霊の加護を無視し、生命力を直接削るような術式だったと、カイランの記憶にはある。普通の魔法とは根本的に違うんだろうな」


「……それは恐ろしいですね」


 セリスの表情が少し曇る。


 俺は頷きながら、森の奥へと進んでいく。だが、その途中、ルナが突然耳をピンと立てた。


「カイン……キケン。だれか、ついてくる」


 ルナの警告に、俺たちは足を止める。


「本当か?」


 俺は周囲を見渡す。しかし、森は静まり返っている。小鳥のさえずりも、虫の鳴き声もない。まるで森全体が何かを警戒しているかのようだった。


「……気配はする。でも、よくわからない……」


 ルナは不安げに鼻を鳴らす。


「気のせいじゃないわね。この森に生きる者なら、もっと自然に溶け込んでいるはずよ」


 エルンも警戒を強める。


 俺も目を細めて周囲を見渡すが、敵らしき姿は見えない。


「足を速めよう。ヘルムガルドに着く前に、こっちの動きを読まれたくない」


 俺たちは先を急ぐことにした。


 一方、森の奥。黒装束の男たちが木々の陰に潜みながら、俺たちの動向を見守っていた。


「やはり奴はヘルムガルドへ向かっている……」


 男たちの中でリーダー格の者が静かに呟く。


「報告通り、カインという男が行動を起こしたか」


「どうする? 今襲うか?」


 仲間の一人が問う。


「いや、まだだ。奴には精霊の加護を持つ獣がついている。あの魔法キツネがいる限り、下手に動くと感知される。まずは奴らを十分に疲れさせてから仕掛ける」


 影を纏った男たちは静かに潜みながら、獲物を狙う狼のように機会を窺っていた。


――夜が訪れた。


 俺たちは森の開けた場所に小さな野営地を作ることにした。周囲の木々に覆われており、風を避けるには都合が良い。


「ここなら少しは安全ね」


 エルンが周囲を確認しながら呟く。


「それでも、警戒は怠らないようにしないとな」


 俺は火を焚きながら、周囲にいくつか罠を仕掛けた。


「ルナ、お前の感覚を頼りにしてもいいか?」


 俺はルナの頭を撫でる。


「まかせて……カイン」


 ルナは目を細めながら、小さく鳴いた。


 夜が更けるにつれ、森の中は静寂に包まれていった。しかし、ルナはずっと耳を立てて警戒を続けている。


 そして——。


「カイン……やっぱり、いる」


 ルナが低く唸った。俺たちは即座に身構える。


 その瞬間、影がゆらめき、結界のような魔法が張られた。


「これは……!?」


 俺は剣を構えた。


「闇魔法の結界よ! こっちの動きを封じるつもりね!」


 エルンが即座に察知する。


 影の中から、黒いフードを被った者たちが現れた。


「……見つかったか」


「ようこそ、エルフの冒険者カインよ。我らが主は、貴様を歓迎すると言っているぞ」


「主?」


 俺は眉をひそめる。


「まさか……ヴァルディスの手先か!?」


 エルンが鋭く叫ぶ。


 影を纏った男たちは答えず、静かにナイフを抜いた。そして、一斉に俺たちへと襲いかかる——。


 セリスが素早く反応し、剣を抜いて敵の斬撃を受け止める。


「ふんっ!」


「カイン、やるわよ!」


 エルンが風魔法を展開する。


「疾風の精霊シルフィードよ! 我が魔力を代償とし、闇を切り裂け——烈風の刃 (ウィンドカッター)!」


 鋭い風が影の結界を切り裂き、封じ込められかけていた俺の動きを解放する。


「助かった!」


 俺は剣を振るいながら魔法を発動する。


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、影を断て——蒼閃!」


 俺の手から蒼く輝く刃が放たれ、影の男の一人を吹き飛ばした。


「クッ……奴の力は本物か……!」


 怯んだ男たちは後退し始める。


「引くぞ。今は時期が悪い」


 彼らは素早く撤退し、森の奥へと姿を消した。


「……なんとか撃退したな」


 俺は息を整えながら呟いた。


「でも、彼らが何を目的としているのか……」


 セリスが不安げに呟く。


「グレイヴナー伯爵が、俺たちに刺客を送り込んできたのかもしれないな」


 俺は剣を収める。


 エルンも険しい表情を浮かべる。


「とにかく、明日ヘルムガルドへ向かう前に、もう一度計画を練り直そう」


 俺は焚き火を見つめながら言った。


 ルナはその場に座り込み、じっと森の奥を見つめていた。


「カイン……あそこ、あぶない……」


 小さく呟く。


 静寂の中、森の奥で何かが動いた。


 風が吹き抜け、闇の中にざわめきが広がっていった——。

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