第4話 招かれざる挑戦者
神殿の外は、夜の闇と静寂に包まれていた。数人のエルフの警備兵が緊張した面持ちで周囲を警戒する中、その中心に黒いローブをまとった一つの影が立っていた。
「何者だ?」
俺が声をかけると、その影はゆっくりとフードを下ろす。現れたのは、鋭い眼光を宿した若い男のエルフだった。長く美しい金髪、整った顔立ち。だが、その瞳はこちらを試すような、冷ややかな光をたたえていた。
「……お前が『賢者』か」
「お前は誰だ?」
「名乗るほどの者ではない。ただ、お前が本当にカイラン様なのか、確かめに来ただけだ」
(またこのパターンか……)
俺は内心でため息をつく。どうやらこの男も俺を疑っているらしい。
「証明しろ、とでも言うのか?」
「証明できるというならな」
男の口元が、侮蔑するようにわずかに歪む。その態度は、俺が偽物であることを確信しているかのようだった。
「それができないなら、お前は我らエルフの誇りに泥を塗るだけの存在だ」
男はそう言うと、腰の短剣を抜き放ち、その切っ先を俺に向けた。周囲の警備兵たちが慌てて俺の前に立とうとするが、それよりも早く、凛とした声が場を制した。
「待ちなさい、レオナルド」
声の主は、俺の後ろから静かに歩み出たエルンストだった。彼女は男の前に立ちはだかり、その瞳に強い決意を宿して告げる。
「彼の資質の確認は、今、私が行っています。そして賢者を試すのであれば、まず問われるべきは力ではなく知恵。それが古くからの習わしです」
エルンストの言葉に、レオナルドと呼ばれた男はわずかに眉をひそめた。
「……ならばどうする?」
「彼が本物ならば、言葉と知恵でそれを証明するべき。あなたも、その証人となりなさい」
エルンストの言葉は単なる提案ではなかった。それは、この場の秩序を守る者としての、揺るぎない宣言だった。レオナルドはしばらく沈黙した後、短剣を鞘に収め、俺をじっと見据えた。
「……わかった。その証、とくと見せてもらおう」
こうして、血の気の多い挑戦者を前に、俺は自らの存在を「知恵」で証明することになった。エルンストによる「第一段階:資質の確認」は、予想外の証人を迎えて、次の局面へと移ろうとしていた。




