第283話 進軍、知の殿堂へ
アーカイメリアの賢人会議からの挑戦的ともいえる回答。
それを受け、三国同盟は即座に行動を開始した。
エルフェンリートの森の境界、広大な平原に、三つの国の軍勢が集結する。その光景は、まさに壮観の一言だった。
ロルディア王国からは、レオンハルト王の信頼厚い騎士団。磨き上げられた鋼の鎧をまとい、王家の紋章である金獅子を染め抜いた旗を、誇らしげに掲げている。
ドワーフ王国グラムベルクからは、ボルン・アイアンフィストが鍛え上げた最新の武具で武装した、屈強な重装歩兵部隊。その一糸乱れぬ隊列は、さながら動く鋼鉄の城壁だ。
そして、エルフェンリートの森からは、レオナルドが率いる精鋭のレンジャー部隊。彼らは風のように静かで、その矢の一本一本には、森の怒りと、守るべき故郷への想いが込められていた。
種族も、文化も、思想も違う、三つの軍勢。
その、数百にも及ぶ兵士たちの前に、俺は仲間たちと共に立っていた。
「これより、我々は、学術都市アーカイメリアへと進軍する」
各国の代表者による合議の末、この大規模な連合調査軍の総指揮官として、俺が立つことが決定された。その隣には、参謀としてカズエルが、そして、各部隊との連携を担う副官として、エルン、セリス、レオナルド、さらに、その鋭敏な感覚で魔力探知を担うルナが並ぶ。
「我々が戦う相手は特定の国ではない。世界の理を弄び、我々を内側から破壊しようとする見えざる『混沌』だ! だが、俺は信じている。これまで深く交わることのなかった我々の、種族を越えたこの結束こそが、奴らの歪んだ思想を打ち破る、最強の剣となることを!」
俺の、不器用だが、魂を込めた言葉。それが、兵士たちの心に確かに火を灯した。
「「「うおおおおおっ!!」」」
地を揺るがすほどの雄叫びが、平原に響き渡る。
彼らは今、一つの目的のために拳を突き上げている。三国同盟軍は完全に一つになった。
壮大な連合軍が、知の殿堂アーカイメリアへと、その進軍を開始した。
――その頃。
アーカイメリアの筆頭神官セイオンの私室。
彼は水晶に映し出された連合軍の壮大な進軍の様子を、まるで美しい絵画でも鑑賞するかのように満足げに眺めていた。
「……見事だ。実に、見事だ」
彼の口元に穏やかな、しかし、どこか狂気を帯びた笑みが浮かぶ。
「各国に不和の種を撒き、互いに争わせ、引き裂こうという、私のささやかな目論見。それを、あの男、カインはことごとく覆して見せた。それどころか、決して深く交わることのなかった三国を、一つの目的の元にまとめ上げてしまった」
彼の計画は失敗したはずだった。だが、彼の瞳には失望の色など微塵も浮かんでいない。
「闘争の先に新たな調和が生まれる。これこそが、私が追い求めてきた混沌の理……。カイン、君は私が想像した以上の最高の『触媒』だよ」
セイオンはゆっくりと立ち上がると、部屋の奥にある巨大な天球儀のような装置へと歩み寄った。その表面にはアルヴェントの世界地図が、精緻な理式によって描かれている。
「だが、闘争によって生まれた調和は、より大きな『破壊』によって、次の次元へと昇華されなければならない。……それが、世界の『進化』というものだ」
彼は天球儀にそっと手をかざした。
彼が魔力を込めると、天球儀の盤上の理式が禍々しく輝き始めた。
「さあ、始めよう。私が信じる理において実行される、秩序ある美しい『破壊』を。君たちのその固い結束が、どれほどの『理不尽』に耐えられるのか。試させてもらうとしよう」
セイオンの瞳には神の如き冷徹な光が宿っていた。
彼が仕掛ける次なる一手は、もはや、カインたちの予測の範疇を遥かに超えていた。
進軍する、希望の連合軍。
そして、それを待ち受ける、冷徹かつ絶対的な悪意。
二つの巨大な意志が、今、知の殿堂を舞台に激突しようとしていた。




