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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練
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第28話 新たなる策謀

 長老会が次の試練の内容を検討している間、俺たちはエルンストの実家でもあるセリディア邸の一室に滞在していた。窓の外では、森の木々が静かに風に揺れている。穏やかな光景だ。だが、この静けさの裏で、俺の処遇を巡る見えざる戦いが繰り広げられていることを、俺は肌で感じていた。


「……さて、今日もひと騒動ありそうだな」


 俺は寝台から降りると、用意されていた薄手のローブを羽織った。これまでの試練を経て、俺の存在が単なる「異物」ではなく、森の未来を左右しかねない「変数」になったことは確かだ。そして、変数を嫌う者はどこにでもいる。


 館の廊下を歩いていると、エルンがこちらに向かって足早にやって来た。その表情には、普段の落ち着きとは違う、わずかな緊張が滲んでいる。


「おはようございます、カイン。昨夜はよく休めましたか?」


「ああ、思ったよりもな。……それで、何か動きがあったか?」


「はい。信仰派の一部が『カイン様こそが未来の導き手である』として、独自に動き始めています。彼らは、あなたが森に新しい風を吹き込むと確信しているようです」


「早速か……。あまり過激な動きをされると、かえって保守派を刺激するだけなんだがな」


 俺の言葉にエルンは頷きつつ、少し心配そうな表情を浮かべた。


「中立派はまだ静観を決め込んでいますが、保守派の筆頭格であるヴィンドール様が、ついに動きました。今朝早く、彼は密かに一部の戦士たちと接触し、『このままではエルフの誇りが失われる』と、あなたの危険性を説いていたとのことです」


「まるで俺が、エルフの誇りを傷つける災厄みたいな言い草だな」


「実際、彼は本気でそう思っているのでしょう。高位エルフたるカイラン様の器を、異界の魂が乗っ取った――。それを、森への冒涜だと考えているようです」


 俺は腕を組んで考え込む。ヴィンドールのような者が保守派をまとめ上げれば、いずれ直接的な衝突も避けられないだろう。来るべき最終試練の場で、何かしらの妨害を仕掛けてくる可能性も高い。


「信仰派の暴走は抑えられそうか?」


「完全に抑えるのは難しいでしょう。ですが、ルナがうまく立ち回ってくれています」


「ルナが?」


 エルンの言葉に、俺は驚いて窓の外を見た。庭の一角で、ルナが信仰派の若いエルフたちに囲まれ、一生懸命何かを話している。


「ルナは、『カインは、みんなと仲良くしたいだけだよ。だから、今は静かに待ってて』と説得しているのです。彼女の純粋さが、過激な行動の抑制力になっています」


「……あいつ、そんなことまで」


 ルナはただの魔法キツネではない。俺のことを深く理解し、時に先回りして行動することがある。その存在の大きさに、俺は改めて感謝した。


「ですが、問題はヴィンドールの方です。彼は……何かを企んでいるに違いありません」


 エルンの表情が厳しくなる。


「ヴィンドールが次にどう動くか、しばらく監視しておく必要があるな。エルン、頼めるか?」


「もちろんです。私の情報網で、彼の動向を探ります」


 俺は窓の外に広がる、静かな森を見つめる。霧が少しずつ晴れていくように、やがて真実も明らかになるだろう。だが、それまでの間に、どれだけの策謀が渦巻くのか――。

 最終試練は、ただ魔法の腕を試されるだけでは終わらない。俺は、静かに迫る嵐の気配を、確かに感じていた。

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