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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

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第271話 鋼の都への帰還

 氷獄と化した霊峰を後にした俺たちの足取りは鉛のように重かった。

 俺の手の中にある革袋。そこにはドラグハートの欠片が、確かな温もりと力強い脈動を伝えてくる。これは、失われた仲間たちの腕を取り戻すための、唯一にして最後の希望だ。

 だが、その希望に至る道筋で流された血と、払われた犠牲の記憶が俺たちの心を静かに(さいな)んでいた。


 ***


 数日後、俺たちは夜の闇に紛れ、グラムベルクの城門へとたどり着いた。

 竜の討伐という、国家はおろか大陸全土を揺るがしかねない事実はまだ民衆に知られてはならない。

 俺たちは人目を忍び、王宮の裏門から城内へと案内された。


 鍛冶王バルグラスとの私的な謁見の場で、古竜マグナ・イグニスの討伐を正式に報告する。

 謁見の間に通された俺たちを前に、バルグラスは玉座から立ち上がり、早足で階段を降りてきた。


「……戻ったか」


 王の声は安堵と、そして俺たちの無事を確認するような緊張に満ちていた。

 俺は懐からドラグハートの欠片を包んだ革袋を取り出し、静かに王の前に差し出した。


「陛下。……古竜マグナ・イグニスは今、完全に沈黙いたしました」


 その言葉と同時に、革袋越しに伝わるドラグハートの、穏やかで、しかし圧倒的な生命力の波動。


 バルグラスは長年の悲願であった国の脅威が本当の意味で取り除かれたことを悟った。彼はその屈強な体をわずかに震わせ、深く、長い息を吐いた。


「……そうか。……ついに終わったのか……」


 心の底からの安堵と感謝の表情が彼の厳めしい顔に浮かぶ。

 だが、その視線が俺たちの背後に控えるレオナルドとセリスの姿を捉えた瞬間、王の表情は一変した。

 あるはずの腕がない。袖が力なく垂れ下がっている。

 そのあまりにも大きな犠牲の跡に王は言葉を失い、顔を深い苦悩と痛みに歪ませた。


「……すまぬ。……すまなかった……。我が国の永年の課題のために……そなたたちに、これほどの犠牲を強いることになるとは……」


 王が友のために膝を折ろうとする。

 俺は慌ててその肩を支え、静かに首を横に振った。


「陛下、お顔を上げてください。これは陛下のせいではありません。我々が戦っていたのは古竜だけではなかったのです」


 俺はセイオンの存在と、彼の言葉によってこのドラグハートを手に入れた経緯を簡潔に、そして正確に王に説明した。


「このドラグハートを触媒として、アーカイメリアでなら、失われた腕を再生できる可能性があると……我々を影で操っていた張本人、筆頭神官セイオンから、そう聞かされました」


 俺の報告をカズエルが補足するように続けた。


「奴の言葉を鵜呑(うの)みにするわけではありません。ですが、アーカイメリアが世界最高峰の生命科学と錬金術の研究施設を持つのは事実。ドラグハートほどの高純度の生命エネルギーの塊があれば、理論上、肉体の再生は不可能ではないはずです」


 その言葉を聞き、バルグラスは再びその目に力を宿らせた。


「……そうか。セイオン……その名、覚えておこう。敵の施しを受けるのは(しゃく)に障るが、仲間を救うためとあらば手段は選んでおれん」


 王は国の英雄である彼らの治療のため、アーカイメリアへの旅への全面的な協力を固く約束した。また、霊峰に残された竜の死骸を国軍総出で回収し、その素材をカインたちのために役立てることも誓ってくれた。


 俺はその言葉に深く頭を下げ、そしてもう一つ、重要な懸念を口にした。


「陛下。……セイオンによって貴国にもたらされた対消滅の技術。その脅威はまだ世界に残っています」


 セイオンの名を聞き、バルグラスの目に王としての鋭い光が戻る。


「奴はその情報を各国に流し、世界に不和の種を撒きました。貴国が孤立する状況を意図して作り出したのです」


「ああ、分かっておる。すでにエルフの森や、人間のいくつかの領主から非難の使者が来ておるわ」


 バルグラスは苦々しげに吐き捨てた。


「だが、わしはお前たちを信じ、あの技術は破棄した。その事実はいずれ世界も理解するだろう。……そして、その元凶であるセイオンは、もはや我が国にとっても看過できぬ敵だ。カインよ、お前が奴と戦うというのなら、このドワーフ王国もまた、国を挙げてお前の背中を押そう」


 ロルディア王に続き、ドワーフ王からも、対セイオンへの全面的な協力を得ることができた。

 その事実は俺たちの心に確かな希望の光を灯した。


 謁見を終え、以前と同じ屋敷に戻った俺たちは、久しぶりに安堵の空気に包まれていた。


「これで、ロルディアとグラムベルク、二つの大国が俺たちの味方になってくれた」


「ええ。セイオンは底知れない脅威ですが、これだけ多くの協力が得られれば、きっと活路が見いだせるはずです」


 セリスの言葉に仲間たち全員がうなずく。

 絶望の淵で掴んだ、小さな希望。それが今、大きな力となって俺たちの未来を照らし始めていた。

 俺たちは次なる目的地、学術都市(アーカイメリア)へと向かう決意を改めて固くするのだった。

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