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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

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265/266

第265話 好機と最後の総攻撃

「――これが、最後の総攻撃だ!」


 俺の叫びが、時が止まったかのような戦場に響き渡った。

 それは、最大の敵であるセイオンが作り出した、偽りの好機。だが、俺たちにとって、これが唯一にして最後の活路であることに、疑いの余地はなかった。


「エルン!」

「ええ!」


 俺の声に応え、エルンは覚悟を決めた。彼女は自らのポーチから、これまでの旅で集めてきた魔力を帯びた宝珠や、力の宿った魔石など、手持ちの魔道具のすべてを取り出した。


「私のすべてを、この一撃に……!」


 彼女が杖を天に掲げると、その魔道具たちが眩い光を放ちながら砕け散り、膨大な魔力の奔流となって、彼女の杖の先へと収束していく。


「集い、束ねられし光の精霊たちよ! 我が全魔力と、この輝きを代償に、かの竜を討つ、終わりの一矢となれ!――《終光ラスト・レイ》!」


 放たれたのは、もはや不可視の光線ではなかった。

 極限まで凝縮された聖なる光の奔流が、時間すら歪む空間を切り裂き、マグナ・イグニスの巨大な頭部へと、寸分の狂いもなく直撃した。


その瞬間、セイオンが展開していた時間操作の理式が、エルンの放った膨大な魔力に耐えきれず、ガラスのように砕け散った。


 時は、再び、正常に流れ始める。


「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!」


 マグナ・イグニスから、これまでにない、脳を直接揺さぶるかのような絶叫がほとばしった。

 《終光》は、その硬い黒曜鱗を貫通することはできなかった。だが、内側から、その視神経と脳を、見えざる光で焼き尽くしていたのだ。竜の両目から、まるでマグマのような炎が噴き出し、その巨体は、完全に視力を失って、苦しげに暴れ回る。


「よし!」


 カズエルが叫んだ。彼は、負傷して倒れているセリスの前へと進み出ると、その両手で、新たな理式を構築し始めていた。


「――理式展開! 対象、セリス、レオナルド。生体情報、神経伝達系に限定介入。効果、痛覚信号の強制遮断!」


 彼の指先から放たれた、精緻せいちな光の術式が、倒れている二人の身体を優しく包み込む。

 次の瞬間、苦痛に顔を歪めていたレオナルドとセリスの表情から、力が抜けた。彼らは驚いたように、自らの、もはや動かぬはずの腕を見つめている。


「……痛みが、ない……?」

「……ああ。身体は重いが、剣なら、まだ……!」


 二人は互いの顔を見合わせると、最後の力を振り絞るように、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、俺の目を真っ直ぐに見据え、強く、頷いた。

 俺が、最後の攻撃を叩き込むための時間を、自らの命を賭して、作ってくれると。その覚悟が痛いほどに伝わってきた。


「頼みます、カイン殿!」

「お前に全てを託す!」


 二人の英雄が、最後の陽動のために、再び、暴れ狂う竜王へと、その身を躍らせた。

 その隙に、俺は竜の懐、死角となる場所へと、一直線に飛び込んだ。


 全ての神経を研ぎ澄ませる。

 勝利への道筋は、もう、見えている。

 俺は最後の力を振り絞り、その一撃を、放つ。

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