表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

263/266

第263話 絶望の淵に差す光

 レオナルドとセリス。俺たちの誇るべき二人の剣士が同時に地に伏した。

 その光景が俺たちの心を、思考を、一瞬にして凍りつかせる。勝利への道筋が完全に断たれた。残されたのは、絶対的な力の差という、あまりにも残酷な現実だけだった。


「そんな……嘘でしょう……」


 エルンが、か細い声で呟く。

 だが、マグナ・イグニスは、俺たちに絶望を噛みしめる時間すら与えてはくれなかった。

 その巨大な瞳が、今度は、負傷し動けないレオナルドへと無慈悲に向けられる。追撃の牙が彼に迫ろうとしていた。


「させるものですか!」


 最初に動いたのは、エルンだった。彼女は、レオナルドの前に立ちはだかるように杖を構え、風の魔力を解放する。


「《風のウィンドウォール》!」


 荒れ狂う風が、竜の追撃を防ぐ、か弱い、しかし確かな壁となった。


「カズエル!」

「わかっている!」


 焼け落ちたセリスの腕を見て、普段の冷静さを失いかけていた彼は、自分を叱咤するようにして、気持ちを切り替え、理式の展開を始めた。


「理式展開――《絶対防御陣イージス・フィールド》!」


 彼の前に、論理で構築された光の障壁が出現し、セリスを追撃から守る。


「うぅ……どうしよう……どうすればいいの……」


 ルナは倒れた仲間たちと、圧倒的な竜の姿を交互に見つめ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


 俺たちの必死の防御を前にして、マグナ・イグニスは、初めて、心からの怒りをその身に宿したようだった。矮小な存在に、二度も抵抗された。その事実が、古の竜王のプライドを傷つけたのだ。


 ゴオオオオオオオオッ!!


 これまでのどの咆哮よりも、重く、そして破壊的な怒りに満ちた声が、氷獄全体を揺るがす。

 奴は、その巨大な口を、ゆっくりと、大きく開いた。その奥に、全てを終わらせる、最後のマグマの熱が収束していく。とどめのブレスだ。


 万策、尽きた。

 俺たちが、その絶望的な光景を前に死を覚悟した、その瞬間だった。


 戦場から少し離れた、凍てついた崖の上。

 一つの影が、静かにその惨状を見下ろしていた。


(さすがは古竜と言うべきか。私の理式だけでは、勝ち目が無いだろうな。だが、カイン……。君のその力は、混沌の触媒として実に興味深い。今回も、利用させてもらうとしよう)


 セイオンが指を鳴らすと、理式の光がマグナ・イグニスを包み込んだ。

 次の瞬間、俺たちの目の前に、信じがたい光景が広がる。


 ――ぴたり、と。

 竜の動きが、まるで粘性の高い液体の中を動くかのように、極端に鈍化していく。放たれる寸前だったブレスの熱量も、その勢いを失い、揺らめくだけだ。


「……なんだ……?」


 その、あまりにも異様な静寂の中、一つの声が、響いた。

 凍てついた崖の上から、淡々としたセイオンの言葉だ。


「さあ、賢者カイン。そして、その仲間たちよ」


 彼は、もはや脅威ではなくなった竜を指し示した。


「君たちに、千載一遇の好機を与えた。動きの鈍った竜を前にして、どのような答えを出すのか。新たな『可能性』に期待している。ただし、この時を維持できるのは、そう長くはない」


 それは、救いの手ではなかった。

 ただの気まぐれ。自らの実験が、より面白くなるようにと加えられた、悪趣味な演出。

 偽りの共闘。

 俺たちは最大の敵によって、生かされ、そして、試されている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ