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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

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第260話 戦場の作戦会議

 命からがら、灼熱の盆地から離れた岩陰まで退却した俺たちは、言葉を失い、ただ荒い息を繰り返していた。

 先ほどの光景が網膜に焼き付いて離れない。一度のブレスで半壊し、最強の剣も魔法も、まるで赤子扱いされたという絶望的な現実。それが、仲間たちの顔に重い影を落としていた。


「くそっ……!」


 レオナルドが拳で地面を殴りつけた。彼の指の隙間から血が滲む。


「かすり傷一つ、まともにつけられなかった……! 奴をあの場から一歩も動かすことすら、できなかったとは……!」


 その悔しさは、俺も、セリスも、エルンも同じだった。

 特に最前線で刃を交えたセリスは、唇を強く噛みしめ、震える手で愛剣の柄を握りしめている。


「追ってこなかったのは……私達が、その必要すらない、取るに足らない存在だと判断されたから……」


 セリスの絞り出すような声に、誰も反論できなかった。

 圧倒的な強者の余裕。俺たちは、その掌の上で、ただ弄ばれたに過ぎない。


「……こわい……。あんなの……どうやっても、勝てっこないよぉ……」


 ルナが俺の服の裾を掴み、小さな声で震えた。その恐怖は、俺たち全員が共有するものだった。


 どうする。このままでは全滅だ。

 俺は焦燥に駆られながら、思考を巡らせる。

 何故、奴は追ってこなかった? 本当に俺たちを見逃しただけなのか?

 いや、違う。あの竜の瞳には油断も慢心もなかった。ただ、静かな、絶対的な確信があった。


 ……確信? 何に対する?


 その時、俺の脳裏にドワーフの国で聞いた古の伝承が蘇った。

 ――古竜マグナ・イグニスは、かつて神々との戦いで深手を負い、この北の霊峰で、永い眠りについた、と。


「……そうか。あいつは傷を癒していたんだ……」


 俺の呟きに仲間たちが顔を上げる。


「あの場所で、何百年、何千年もの間、ずっと。この霊峰に満ちる、強大な地熱の魔力を吸い上げて……。だから、あの場所から動けない。いや、動く必要がないんだ。巣穴そのものが、奴にとっての要塞であり、力の源なんだ」


 俺の言葉に、絶望の空気が、わずかに揺らいだ。

 その一瞬の揺らぎを見逃さない男がいた。


「……面白い仮説だ」


 カズエルが、眼鏡の奥の目を光らせた。彼は、それまでの沈黙が嘘のように、早口で言葉を紡ぎ始めた。


「もし、その仮説が正しいなら……一つだけ、手がある。奴を直接攻撃するんじゃない。奴がいる『環境』そのものを俺たちの武器に変えるんだ」


 カズエルは立ち上がると、霊峰の方角を指差した。


「奴が力の源とする地熱エネルギー。その流れを俺の理式魔術で強制的に逆転させたら、どうなると思う?」


「エネルギーを……逆転させる?」


 俺が聞き返すと、カズエルは不敵な笑みを浮かべた。


「ああ。熱を『触媒』として、正反対の現象――『冷却』を引き起こすんだ。竜の巣がある空間だけを極度に冷却する。奴の力の源を内側から凍らせる」


 その、あまりにも壮大で、そして大胆な作戦に俺たちは息を呑んだ。


「……それに賭けよう」


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 絶望の淵で見出した、あまりにも細い一筋の光明。それを手繰り寄せるため、俺たちの新たな作戦が始まろうとしていた。

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