表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

259/270

第259話 初撃と絶望

 神と見紛うほどの存在。

 古竜マグナ・イグニス。その巨大な瞳が、俺たちを、まるで取るに足らない塵芥ちりあくたのように、静かに捉えていた。

 空気が鉛のように重く、息が詰まる。パーティーの誰もが、その圧倒的な存在感を前に、指一本動かせずにいた。


「……レオナルド、セリス!」


 俺は喉の奥から絞り出すように叫んだ。


「威力偵察だ! 奴の動きと鱗の硬さを探る!」


 その言葉が、凍りついた仲間たちの覚悟に再び火を灯した。

 二人の剣士は弾かれたように同時に地を蹴る。レオナルドは右から、セリスは左から。異なる軌道を描きながら、竜の巨体へと肉薄していく。


 だが、マグナ・イグニスは、その二人を意にも介さなかった。

 その視線は後方に控える俺たち――魔法の使い手へと、静かに向けられていた。

 空気が一点へと吸い込まれていく。奴の巨大なあごが開かれ、その奥に、世界の終わりを思わせるほどの、眩い光が収束していく。


「まずい、ブレスが来るぞ!」


 カズエルが叫ぶのと、俺が防御魔法を展開しようとするのは、ほぼ同時だった。


「理式障壁、最大展開!」

「ウンディーヴァよ、我が魔力を代償に、大いなる水の壁をここに築け――、《大水壁アクアウォール》!」


 理式障壁と、水壁が、俺たちの前に、かろうじて二重の防御を形成する。

 次の瞬間、世界が白と赤に染まった。


 マグナ・イグニスが放った広範囲のマグマブレスが、全てを薙ぎ払ったのだ。


 轟音。

 俺の水壁は一瞬で蒸発し、カズエルの理式障壁にも、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。障壁がみしみしと軋む音を立て、俺たちの身体は、その衝撃波だけで、数メートルも後方へと吹き飛ばされた。


「ぐっ……ぁ……!」


 地面に叩きつけられ、肺から空気が絞り出される。パーティーは文字通り半壊状態だった。


「まだよ……!」


 煙の中から、エルンが立ち上がった。彼女の杖の先には、紫色の終わりの光が宿っている。


「これなら……! 《終光ラスト・レイ》!」


 彼女の放った不可視の光線が竜の巨体に着弾する。だが、その硬い黒曜鱗は、光の魔力すらも、まるで受け付けない。術は鱗の表面で虚しく霧散した。


「嘘……私の最強の魔法が……」


 エルンが絶望に目を見開く。その横をセリスの剣が風を切って走った。

 彼女は竜の巨体の側面へと滑り込むように回り込み、その巨大な足首目掛けて、《風哭ふうこく》を渾身の力で叩き込む。

 だが、甲高い金属音と共に刃は硬い黒曜鱗に弾かれ、火花を散らして鱗の表面をわずかに削っただけだった。


「……なんて、硬さ……」


 セリスの手が衝撃に痺れて震えている。

 最強の剣も、最強の魔法も、この絶対的な存在の前では、ほとんど意味をなさなかった。


「……撤退する!」


 俺は叫んだ。これ以上は無駄死にするだけだ。


「ここから離れるぞ! 総員、退却だ!」


 俺たちは、負傷した仲間を庇いながら、必死に、その場から離脱した。

 マグナ・イグニスは、そんな俺たちを追おうともしない。ただ、その巨大な瞳で、静かに、俺たちの無様な姿を見下ろしているだけだった。


 圧倒的な力の差。抗うことすら許されない、絶対的な絶望。

 賢者として、英雄として、数々の死線を乗り越えてきたはずの俺の心に、初めて、完全な「敗北」の二文字が、重く、刻み込まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ