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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

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第256話 鋼の誓い、竜との戦い

 俺の言葉に、鍛冶王バルグラスは心の底から安堵したように、その顔を深く歪ませた。玉座の間を支配していた張り詰めた空気は霧散し、代わりに友が友の苦悩を受け止め、その未来を共に背負うと決めた、重く、そして確かな信頼が満ちていた。王は俺の肩を掴むその屈強な手に、ドワーフの王としての、民の父としての、全ての想いを込めているようだった。


「……恩に着る、カイン。この国は、いや、わしは生涯、そなたという友を忘れん」


 それはもはや一国の王と一人の英雄との間の公式なやり取りではない。魂と魂が交わした、鋼のように固い誓約だった。セイオンが仕掛けた世界を揺るがす罠は、こうして、一人の王の気高い決断と、俺たちの覚悟によって、ひとまず乗り越えられたのだ。


 だが、平穏が訪れたわけではない。その先には神話の時代から眠り続ける、古の竜とのあまりにも過酷な戦いが待っている。


 俺たちは早速、王宮から貸し与えられた書庫で、来るべき戦いに備え、準備を始めた。そこには、王家の者しか閲覧を許されない、古竜マグナ・イグニスに関する数少ない古文書が保管されていた。


「……マグナ・イグニス。別名、『山を喰らう者』。そのブレスは鋼鉄すら一瞬で蒸発させ、その鱗は、いかなる魔法も弾き返す、と……」


 カズエルが古びた羊皮紙を読み解きながら、淡々と、しかし、どこか苦々しげに、その絶望的な情報を分析していく 。書庫に、バルグラス王が数名の屈強なドワーフ戦士を伴って現れたのは、その時だった 。


「カインよ。そなたたちだけで、死地へ向かわせるわけにはいかん」


 王は真剣な眼差しで俺たちを見据えた。


「ここにいるのは、我が国最強の精鋭部隊『炉の斧守フォージ・ガード』だ。彼らを、そなたたちの討伐隊に同行させよう。必ずや、力になるはずだ」


 王の、友としての、そして王としての誠実な想いが痛いほどに伝わってくる。俺は深く頭を下げたが、静かに首を横に振った。


「お気持ち、心から感謝いたします、陛下。ですが……」


 俺の意図を汲み、カズエルが言葉を引き継ぐ。


「陛下。我々の戦い方は極めて特殊な連携の上に成り立っています。そこに、どれほど屈強な戦士の方々が加わったとしても、即座に連携を組むのは難しい。古竜ほどの相手では、その、ほんの一瞬の連携の乱れが、部隊の全滅に繋がりかねません」


 俺も頷いた。


「俺たちは少数精鋭で、敵の懐に飛び込む戦い方を得意としています。まずは俺たちだけで竜の巣へと潜入し、活路を探りたい。……もし、それでも状況が打開できず、援軍が必要になった時は、必ずこちらから声をかけます。どうか、それまで、我々を信じてはいただけませんか」


 俺の言葉にバルグラスは、しばらくの間、腕を組み、深く考え込んでいた。やがて彼は、一つ、大きく息を吐くと、その決断を受け入れた。


「……わかった。そなたたちの力を信じよう。だが、決して無駄死にはするな。生きて帰ること。それこそが、友である、わしの願いだ」


 出発の朝。グラムベルクの北門には、バルグラス王自らが見送りに立っていた。


「カインよ。これは我が国が誇る最高の装備だ。持っていくがいい」


 彼が差し出したのは、竜の炎熱にも耐えうるという、黒光りする軽鎧と、霊峰の正確な地図だった 。俺は、その装備と、王の想いの重さを確かに受け取った。


 俺たちはドワーフ王国の未来をその両肩に背負い、竜が棲むという北の霊峰へ、その一歩を踏み出した。空は高く、空気は冷たい。


(……カイラン、聞こえているか? 闇の精霊との一件以来、お前の声がずっと聞こえない。でも、まだ、俺の中にいるのは分かるんだ)


 俺は心の中で沈黙を続ける、もう一人の自分に語りかけた。


(……エルンと結婚して、神話に出てくるような古竜を討伐しに行くことになった。大切な仲間と一緒に)


 俺は共に歩む仲間たちの、その頼もしい背中を見つめた。


(今は俺たちが、六人の力だけで、この戦いに挑む。……見ていてくれ、カイラン)


 俺たちの新たな、そして、最も過酷な戦いが始まろうとしていた。


第十四章・完

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