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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

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第253話 英雄の宣戦布告

 玉座の間は決裂という名の冷たい静寂に包まれていた。

 鍛冶王バルグラスの王としての矜持。民を守るという揺るぎない決意。その前では俺たちの言葉も、世界の未来を憂う進言も、あまりに無力だった。

 説得は不可能。

 その事実を俺たちは痛いほどに理解させられた。


 俺とカズエルは、どちらからともなく顔を見合わせた。

 もう、言葉を尽くす段階は終わった。

 残されている道は一つだけ。


「……陛下」


 俺はバルグラスを友としてではなく、この世界の均衡を崩しかねない、一国の王として見据えた。

 その声は自分でも驚くほど、冷たく、そして静かだった。


「貴方の王としての誇りと、民を想うお気持ちは理解できます。ですが、それでも、あの兵器だけは、決して、完成させてはならない」


 俺は、一歩、前に出た。

 その動きに、玉座の間に控えていた衛兵たちが、緊張に、その斧の柄を握りしめる。


「もし、その兵器が完成するのなら……。この世界が、俺のいた世界と同じ過ちを繰り返す前に……」


 俺は、そこで一度、言葉を切った。

 そして、この旅で初めて、友に向けて、明確な敵意を込めて告げた。


「――我々が、この手で破壊する」


 その言葉が玉座の間に、重く、響き渡った。

 それは、もはや進言ではない。最後通告。

 ドワーフ王国に対する、英雄たちからの明確な「宣戦布告」だった。


「……カイン、貴様……!」


 バルグラスの顔が驚愕と、そして、裏切られたことへの深い怒りに染まる。

 俺の隣でカズエルが、その言葉を冷徹な論理で補強した。


「これは脅しではありません、陛下。論理的帰結です。あの兵器が存在するという事実そのものが、いずれ世界規模の破滅を招く。その確率をゼロにするには、原因そのものを排除する以外に合理的な選択肢は存在しません」


「黙れぇっ!」


 バルグラスが玉座から立ち上がり、咆哮した。


「貴様ら、恩を仇で返す気か! この私に、この国に、剣を向けると、そう言うのか!」


「そうではありません」


 凛とした声と共にセリスが俺の前に進み出た。彼女は王への敬意を失うことなく、しかし、揺るぎない意志で、その剣の柄に手を置いている。


「私たちは貴国と争いたいわけではない。ただ、世界が守るべき一線を、守りたいだけです。……そのための覚悟が我々にはあります」


 その言葉が合図だった。

 玉座の間を警護していたドワーフの衛兵たちが、一斉に、その重い斧を俺たちへと向けた。切っ先が放つ鈍い光が、俺たちの顔を冷ややかに照らし出す。


「させるか!」


 レオナルドが音もなく、俺たちの前に躍り出た。その両手には、すでに二対の牙――新たな双剣が抜き放たれている。

 エルンもまた、杖を構え、その瞳に光の魔力を宿らせていた。


「……カインの邪魔は、させない」


 ルナが低い声で唸り、その小さな手の中に、いつの間にか灼熱の炎が揺らめいていた。


 玉座の間は、一触即発の絶対的な緊張に包まれた。

 友であったはずの王と、英雄と呼ばれた俺たち。その間に、修復不可能なほどの深い亀裂が走った。

 俺は目の前で怒りに震える友の姿を、ただ見つめることしかできなかった。


 俺たちが進むべき道は、あまりにも険しく、そして悲しい。

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