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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

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第247話 カズエル、想いを込めて

 カインとエルンが、月明かりのバルコニーで語り合っていた、ちょうどその頃。

 屋敷の中庭に併設された静かな訓練場に、二つの人影があった。

 カズエルと、セリスだ。


 夜の訓練場は昼間の熱気とは打って変わって、冷たく澄んだ空気に満ちている。並べられた武器や的の影が、月光の下で、濃く、長く伸びていた。

 カズエルは、そんな景色を眺めながら、どう話を切り出すべきか、必死に思考を巡らせていた。


 以前、屋敷の書斎で誓いの言葉を交わした。だが、あれは、あまりに性急な告白だった。今、この穏やかな夜に、改めて自分の本当の気持ちを、そして、その証を彼女に渡さなければならない。


「セリス」


 カズエルが、意を決してその名を呼ぶ。

 セリスは黙々と続けていた素振りの手を止め、静かにこちらを振り返った。


「はい、カズエル」


 彼女は、もう「カズエル様」とは呼ばない。あの夜から、二人の間には新しい関係が芽生えていた。

 その事実に、カズエルの胸が、わずかに熱くなる。


「……君に、渡したいものがある」


 彼は懐から、グレンダの工房で用意した小さな革袋を取り出した。

 そして、その中から、静かな輝きを放つ指輪を取り出す。


 それは、洗練された、美しい幾何学模様が刻まれた、理の守りを宿す誓いの証。


「これは……」


 セリスが息を呑む。

 カズエルは少し照れくさそうに、しかし、真剣な眼差しで言葉を続けた。


「あの夜の誓いは俺の本心だ。だが、あまりに唐突で、不器用すぎた。……だから改めて、君に俺の想いを形にしたものを贈りたかった」


 彼は、一歩、セリスの前に進み出た。


「俺は理屈で物事を考えることしかできない、つまらない男だ。だから、君を守るという想いも、こうして『理式』でしか表現できない」


 彼は指輪の内側に刻まれた、精緻せいちな紋様を、そっと指でなぞった。


「ここには、常時発動型の防御理式が編み込んである。君に物理的な、あるいは魔術的な脅威が迫った時、自動で障壁を展開する、俺なりの『守り』だ。……君の隣に、俺の理性が、常にあると思ってほしい」


 その、あまりにも彼らしい、不器用で、しかし、どこまでも誠実な言葉。

 セリスの瞳が、ゆっくりと潤んでいく。


「……カズエル」


 彼女はカズエルの手から、そっと指輪を受け取った。


「あなたのその理屈っぽさが……私にとっては何よりも温かいのです。あなたのその知性が、私を、そして皆を、何度も救ってくれました。……私は、そんなあなたを心から、お慕いしております」


 彼女は、そう言うと、自らの左手をカズエルへと差し出した。

 その無言の答えに、カズエルは心の底から安堵したように微笑んだ。

 そして、その薬指に、理式の守りが宿る指輪を、そっと、はめた。


 二人の間に言葉はなかった。

 だが、その指輪を通して、互いの想いが温かく伝わっていく。

 作戦から始まった関係は、今、この瞬間に、誰にも壊されることのない真実の絆となった。


 二人は、そっと手を繋ぎ、静かな月の下で、ただ寄り添っていた。

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