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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

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第244話 二組の指輪

 ドワーフの技術研究室で目の当たりにした禁断の技術。その光景がもたらした言い知れぬ不安は、俺とカズエルの心に重い影を落としていた。

 だが、今は目の前のことに集中しなければならない。俺たちは、グレンダの工房へと戻り、指輪の仕上げに取り掛かっていた。


「……よし、土台はできたよ。ここから先は、あんたたちの出番さ」


 グレンダは、熱されたヴァルグリム鉱から巧みに削り出した、四つの小さな銀の輪を、冷却水盤に浸しながら言った。その表情は、いつものように真剣そのものだ。


「どんな想いを、どんな力を込めるのか。そいつが、この指輪の魂になる。ヘマするんじゃないよ」


 その言葉に俺とカズエルは、それぞれの想いを胸に指輪へと向き合った。


 まず、俺が二つの指輪を手に取った。

 一つは俺のもの。もう一つは、エルンのもの。

 俺は目を閉じ、意識を集中させる。脳裏に浮かぶのは、ネフィラの呪詛から俺を救うために、自らの魂を闇に捧げようとした、彼女の気高い決意。俺が眠っている間に、たった一人で、全てを背負おうとした彼女の、あの悲しいまでの優しさ。


 俺は、もう二度と、あんな思いはさせたくない。彼女を、この手で守り抜きたい。


「――水の精霊ウンディーヴァよ」


 俺は静かに詠唱を始めた。これは、攻撃のための魔法ではない。ただ、純粋な加護と、守護を願う、祈りの言葉だ。


「俺の、そして、彼女の心に、常にあなたの清らかな流れがありますように。いかなる時も、その心を穏やかに保ち、穢れから守る、静かなる水の加護を、この指輪に宿したまえ」


 俺の言葉に応え、指輪が淡い蒼色の光を放ち始めた。その光は、まるで清流のように二つの輪を包み込み、やがて、その輝きを金属の奥深くへと静かに沈めていった。


 次に、カズエルが、残る二つの指輪を手に取った。

 彼は、俺のように感情を前面に出すことはしない。だが、その瞳の奥には、セリスへの静かで揺るぎない想いが宿っていた。


「……論理構築、開始」


 彼は理術師としての、彼らしい言葉で術式を編み始めた。


「対象:セリス及びカズエル。目的:外部からの物理的・魔術的脅威に対する、常時発動型・自動防御障壁の形成。定義:この指輪を装着する二者の間に、常に守りの理式が介在するものとする」


 彼の指先から、目に見えないほどの精緻な理式の糸が紡ぎ出される。それは、複雑なプログラムコードのように、二つの指輪の間に、決して破られることのない、論理の守りを編み上げていく。


全ての作業が終わった時、俺たちの前には、二組の全く異なる輝きを放つ指輪が完成していた。


 俺とエルンのための指輪は、流れる水のような滑らかな曲線を描いたデザイン。その表面には水の精霊の加護を示す、微かな青い紋様が浮かんでいる。

 カズエルとセリスのための指輪は、より直線的で洗練されたデザイン。その内側には守りの理式が、美しい幾何学模様として精密に刻み込まれていた。


「……ふん。上出来じゃないか」


 グレンダが、完成した指輪を手に取り、満足げに頷いた。


「これなら、ただの飾りじゃない。あんたたちの想いと力が宿った、本物の『誓いの証』だ。……嬢ちゃんたちも、きっと喜ぶさ」


 その言葉に俺とカズエルは顔を見合わせ、少しだけ照れくさそうに笑った。


 俺たちは完成した指輪を特製の小さな革袋に、それぞれ大切に収めた。

 ドワーフの都で見た、禁断の技術への不安は、まだ消えてはいない。

 だが、この指輪に込めた想いが、これから始まる戦いの中で、俺たちを、そして、大切な仲間たちを守ってくれるはずだ。


 俺たちは確かな手応えと、そして、新たな決意を胸に、王都への帰路につく準備を始めた。

 待っていてくれる、彼女たちの元へ。

 この真実の想いを届けるために。

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