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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

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第241話 男たちの旅路

 王都を後にして二日目の夜。

 俺とカズエルは、街道から少し外れた森の中で、静かに焚き火を囲んでいた。昼間の喧騒は遠く、今はただ、燃える薪がはぜる音と、遠くで鳴く夜鳥の声だけが聞こえてくる。


 今回の旅の仲間は、この男だけ。そのせいか、いつもの冒険とは違う、どこか懐かしいような、それでいて少し照れくさいような空気が流れていた。


「……それにしても」


 火にかけた鍋をかき混ぜながら、カズエルがぽつりと呟いた。


「お前が、あんな提案をするとは思わなかったぜ。なあ、竹内」


 元の世界での呼び名。

 二人きりの時に、こいつがこの名を口にするのは、決まって真面目な話か、あるいは俺をからかう時だ。


「……うるさい。ああでもしないと、あの空気は収まらなかっただろうが」


「まあな。だが、偽りの婚約を本物の指輪で上書きする、か。お前、意外とロマンチストだよな。それとも罪悪感か?」


 カズエルの全てを見透かすような視線に俺は言葉に詰まった。

 こいつの前では嘘や誤魔化しは通用しない。


「……両方だ」


 俺は観念して、正直な気持ちを吐露した。


「ネフィラに仕組まれた闇の契約の一件。その時、俺は死を覚悟したんだ。でも、そんな俺を救うため、エルンは自分の魂すら差し出そうとした。その覚悟の重さを知っているのに、俺が返したのが、作戦っていう名目だけの空っぽの関係じゃ……あまりに惨めすぎる」


 俺は焚き火の炎を見つめた。あの日の光景が炎の揺らめきの中に鮮明に蘇る。


「だからこれは、俺なりの誠意だ。ちゃんとした形で、感謝と……その、敬意を示したかった。守りたいっていう、俺の純粋な気持ちを伝えたいんだ」


 そこまで一気に言うと、俺は照れ隠しのように、乱暴にスープを一口すすった。

 カズエルは何も言わずに、ただ黙って俺の話を聞いていた。


「……そうか」


 しばらくして、彼が静かに呟いた。


「お前も変わったな。昔は他人にそこまで深入りするような男じゃなかった」


「……お前だって、人のこと言えないだろうが」


 俺がそう言い返すとカズエルは、ふっと自嘲気味に笑った。


「ああ、全くだ。俺も、自分の理屈が、あいつの前では、いとも簡単に崩れ去るのを自覚している」


 彼が言う「あいつ」が誰なのか、聞くまでもなかった。


「彼女は気高すぎる。王都での反乱鎮圧の時もそうだ。俺は彼女に無限のスタミナを与えるという、ただの『支援』をしていたに過ぎない。だが、彼女は、その力を、一切の私欲なく、ただ、民を守るためだけに、その一振りの剣に集約させた。……あの姿を見て俺は、ただ、美しいと思った」


 カズエルが初めて見せた、素直な感情の吐露だった。


「理屈や合理性だけじゃない。人の心には、それだけでは測れない価値がある。……あいつの、あの不器用なまでの真っ直ぐさが、俺にとっては眩しすぎる。そして、俺が失いかけていた何かを思い出させてくれる。……柄じゃないが、あいつの気高さに、俺は救われているのかもしれないな」


 俺たちは、どちらからともなく顔を見合わせた。

 そして、笑いがこみ上げてきた。


「……なんだ、結局、俺たち、どっちも同じじゃないか」


「ああ、そうらしいな。……やれやれ。50過ぎのおっさん二人が、異世界でエルフの女の子に本気で惚れ込んで、揃って指輪を作りに行く、か。……物語にしたら、安っぽすぎて誰も読まないだろうな」


「全くだ」


 その夜、俺たちは、久しぶりに腹の底から笑い合った。

 互いの胸の内を明かしたことで、心にあったおりが、すっと消えていくようだった。


 この旅は、けじめをつけるための旅だ。

 そして、自らの本当の想いと向き合うための旅でもある。

 俺は遠い王都にいる仲間のことを思いながら、ドワーフの都へと続く道を改めて強く見据えた。

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