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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練

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第24話 試練を超えた者

 エルフの戦士が放つ剣戟けんげきは、鋭く、的確だった。研ぎ澄まされた太刀筋には、一切の無駄がない。俺は防御に徹しながらも、その完璧すぎる動きの中に、わずかな隙を探していた。


(焦るな……相手の攻撃の流れを見極めろ)


 カイランの教えと、獣との戦いで得た経験が、俺の体を導く。最小限の動きで攻撃を回避し、相手の剣筋けんすじを記憶していく。だが、わずかな判断の遅れが、ここでは致命傷になりかねない。


『相手は経験豊富な戦士だ。だが、お前は体を無駄に動かさず、攻撃を受け流すことを学んでいる。自信を持て』


 カイランの声に背中を押され、俺は相手の足運びを、呼吸を、その視線の動きさえも観察した。そして、決定的な瞬間を待つ。


 エルフの戦士が、勝負を決めるように大きく踏み込んできた。斜めに振り下ろされる短剣を、俺は身を沈めてギリギリでかわす。そのまま相手の内側へ潜り込み、腕を押し上げるようにして剣の軌道を逸らした。


「なっ……!」


 相手の体勢が崩れる。その一瞬の隙を逃さず、俺はすかさず手を伸ばし、相手の手首を掴んで力を抜かせた。短剣が、カランと音を立てて地面に落ちる。


「これで……終わりだな」


 俺は相手の背後へと回り込み、ナイフを喉元へと軽く突きつけた。


 エルフの戦士は一瞬の沈黙の後、悔しさとも感嘆ともつかぬ息を吐いた。


「……なるほど、防御と観察に徹し、相手の力を利用するか。悪くない戦い方だ」


 彼は潔く負けを認め、俺はナイフを下ろした。


 もう一人の、昨夜出会ったエルフも静かに頷き、ようやく警戒を解いた。


「お前の実力、認める。試練を受けるに値する者だな」


「ふう……ようやく信じてもらえたか?」


 俺が息を整えながら苦笑すると、彼らは森の奥へと静かに姿を消していった。


 彼らを退けた俺は、再びアクレアの森の奥へと足を進めた。

 森を進むと、突如として足元の感触が変わった。苔むした地面から、固く平らな石畳の道へと変わる。まるで誰かがここを通ることを想定したかのように、その道はまっすぐと奥へと続いていた。


 やがて、森の奥にぽっかりと開けた空間が現れた。


「これは……」


 そこには、古びた神殿が建っていた。つたが絡みつき、長い年月を感じさせるその建物は、まるでこの試練の最後の地であるかのような、荘厳そうごん威厳いげんを放っていた。


(ここが……精霊の泉か?)


 俺がゆっくりと近づこうとした、その瞬間。


「試練を受ける者よ……」


 低く、それでいて澄んだ声が、神殿の奥から直接、俺の頭の中に響いた。


「ここに足を踏み入れる前に問おう。汝、自らの存在を何と定める?」


 声の主は見えない。しかし、その声にはただならぬ力が宿っていた。俺は息を整え、目の前の神殿を見据える。


(俺の存在……か)


 転生前の俺、竹内悟志。誰にも必要とされず、何も成せないまま終わった人生。だが、今は違う。エルンがいる。ルナがいる。俺を信じ、俺を必要としてくれる仲間がいる。俺は、もうあの頃の俺じゃない。


「俺は……カイン。この世界で、俺の仲間たちと共に生きることを選んだ者だ」


 その言葉を口にした瞬間、神殿の重い石の扉が、ギィ……と音を立ててゆっくりと開かれた。

 静寂の中、俺の心臓の鼓動だけが響く。

 この選択が正しいのかは分からない。しかし、この道の先に、俺が探している答えがあるはずだ。


 俺は覚悟を決め、神殿の中へと足を踏み入れた。

 その背後で、扉がゆっくりと、しかし確実に閉まる音が響いた。もう、後戻りはできない。

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