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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十三章 英雄の喧騒と誓いの言葉

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第233話 英雄を求めて

 嘆きの谷から王都への帰路は重い沈黙に支配されていた。

 マルヴェスが残した「新たな病巣」という言葉の棘は、仲間たちの心に深く突き刺さったまま、俺たちの間にあったはずの信頼を、静かに、しかし確実に蝕んでいた。


 そんな最悪の雰囲気の中、俺たちは王都の城門をくぐった。

 以前、魔獣を討伐した際に受けた民衆からの熱烈な喝采は、もうない。ただ、すれ違う人々が、俺たちの姿を認めては、何かを囁き合うだけだ。その視線には、畏敬と、そして、どこか遠巻きにするような、奇妙な空気が混じっていた。


「……なんだか、前より、見られてる気がするな」


 俺が呟くと、カズエルがやれやれといった口調で応じる。


「当たり前だろ。双冠の英雄、百閃の剣士、神授の媒介者。おまけにエルフの魔術師と謎の美少女だ。これだけ揃って歩いていれば、嫌でも目立つ」


 俺たちは人々の視線を背中に感じながら、王から与えられた屋敷へと続く、貴族街の石畳を進んでいった。

 そして、自分たちの屋敷が見える角を曲がった、その瞬間。

 俺たちは目の前に広がる、信じがたい光景に足を止めた。


「……何だ、これは……?」


 俺たちの屋敷の前が黒山の人だかりで、完全に埋め尽くされていたのだ。

 それも、ただの野次馬ではない。上等な絹のドレスをまとった貴族の令嬢たち、各国の紋章をつけた豪華な馬車、その主君の名代として来たのであろう、いかめしい顔つきの使者たち。彼らが、我先にと屋敷の門へ殺到し、言い争い、揉み合っている。その光景は、もはやパニック状態と言ってよかった。


「どういうことだ……。ここは、俺たちの家のはずだが」


 レオナルドが呆然と呟く。


「うわー、人、いっぱい! なんでみんな、おうちの前にいるの?」


 ルナもまた、目を丸くして、その異常な喧騒を見つめていた。


「お待ちください!」

「いえ、我々が先です!」

「いいえ、我が主君の命が最優先です!」


 使者たちの怒声が、あちこちから聞こえてくる。


 その群衆が俺たちの姿に気づいた。

 次の瞬間、喧騒は、さらに大きな熱狂へと変わった。


「カイン様だ!」

「英雄様が、お戻りになられたぞ!」

「カズエル様もいらっしゃる!」


 人々の波が、一斉に俺たちへと押し寄せてくる。

 俺たちは、あまりの事態に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


「カイン様! 我が主、アルトリア公爵の三女、エリアーヌにございます! どうか、一度お話を!」


「お待ちください! ドワーフ王国、鍛冶王バルグラス様からの親書を預かっております! 我が国の至宝、宝珠の姫君との縁談を!」


「いいえ、我らエルフの森こそが! 長老会からの正式な使者として、賢者様に謁見を!」


 ロルディア、ドワーフ王国、そして、エルフの森。三国から、有力貴族や王族の使者が、カインとカズエルへの縁談を求めて、この場所に殺到していたのだ。


「縁談……だと……?」


 俺は自分の耳を疑った。


「やれやれ。英雄というのも、楽じゃないらしいな」


 カズエルが頭を掻きながら、他人事のように呟く。


 屋敷の門から、執事が血相を変えて飛び出してきた。


「カイン様、カズエル様! お帰りなさいませ! こ、これは、その……皆様、お二方に、一刻も早くお会いしたいと……!」


 その時、俺の脳裏に、マルヴェスの、あの言葉が蘇った。


『世界の熱病は、お前たちが思うより巧妙に、そして身近な場所に巣食うものだ』


(……まさか、これのことか?)


 俺は押し寄せる人々の熱狂と、その裏にある、各国の思惑、そして、それを影で操る、見えざる敵の存在を思い描いた。

 混沌の使徒は俺たちを、剣も魔法も通用しない、全く新しい形の戦場へと、引きずり込むつもりなのか。

「恋愛スキャンダル」という名の、最も厄介で、そして、最もたちの悪い戦場へ。

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