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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十三章 英雄の喧騒と誓いの言葉

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232/265

第232話 帰路の沈黙

 嘆きの谷を後にした俺たちの旅路は、完全な沈黙に支配されていた。

 希望を打ち砕かれ、あまりにも残酷な現実を突きつけられた心は、誰一人として癒えてはいない。それどころか、マルヴェスが残した「新たな病巣」という言葉の呪いが、俺たちの間に目に見えない壁を作っていた。


 隊列は二つに分かれていた。

 先頭を行くのは、レオナルド、セリス、そしてエルン。三人は、まるで一つの独立した部隊のように、互いの死角を補い合いながら、ただ黙々と前進している。その背中からは明確な拒絶の意思が感じられた。


 そして、その後方を、俺とカズエル、そして、その俺たちに寄り添うようにして、リナとセリシアが続く。

 ルナは、そんな俺たちの間の、居心地の悪い空気を感じ取ってか、誰に話しかけるでもなく、一人、地面の石を蹴りながら、とぼとぼと歩いていた。


「……あの、カイン様」


 その重い沈黙を破ったのは、リナの、おずおずとした声だった。


「皆さん、どうして……あんなに怒っているんでしょうか。私、何か悪いこと、しちゃいましたか……?」


 彼女の瞳は純粋な不安と困惑に揺れている。彼女にはマルヴェスとの会話の真意も、この状況の深刻さも、何一つ伝わってはいないのだろう。

 その無垢さが、今は、俺の心を締め付けた。


「……いや。皆、少し疲れているだけだ。気にするな」


 俺は、そう答えるのが精一杯だった。

 マルヴェスの警告が頭から離れない。『身近な場所』『足元』――その言葉が指し示すのは、十中八九、この二人だ。

 だが確証はない。そして何より、彼女たちのこの怯えた姿を見ていると、「混沌の使徒の手先」という、あまりにも凶悪な仮面を、どうしても重ね合わせることができなかった。


 俺の迷いは仲間たちにも伝わっていたのだろう。

 その日の野営は、これまでで最も冷え切ったものとなった。


 食事の時、エルンは無言で全員分のスープを配り終えると、セリスとレオナルドと共に、俺たちのいる焚き火から、少し離れた場所へと移動してしまった。

 俺たちの前には、気まずそうに、しかし健気に明るく振る舞おうとするリナとセリシアがいる。


「カ、カズエル様! このお肉、よく焼けましたよ! どうぞ!」

「……ああ」


 その光景が、まるで俺たちの絆に走った亀裂を象徴しているかのようだった。

 仲間を信じたい。だが、マルヴェスの言葉も無視できない。その板挟みで、俺の思考は完全に停止していた。


 数日後、俺たちは、ようやく王都ロルディアの城壁が見える丘の上へとたどり着いた。

 旅は終わる。

 だが俺たちの中の問題は何一つ、解決していなかった。


「……帰ってきた、のね」


 エルンが王都の街並みを見下ろしながら、ぽつりと呟いた。その声には、安堵も、喜びもなかった。


 俺たちは、この重い沈黙を抱えたまま王都の門をくぐることになる。

 そして、この帰還が、混沌の使徒が仕掛けた、次なる悪意の舞台の幕開けになることを、この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。

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