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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十三章 英雄の喧騒と誓いの言葉

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第229話 リーダーとは

 レオナルドの最後通告は、俺とカズエルの胸に重い楔となって打ち込まれた。

 その夜、俺たちはほとんど言葉を交わすことなく、それぞれの寝床で、ただ夜が明けるのを待った。


 翌朝。

 野営地には、昨日よりもさらに冷たく、張り詰めた空気が流れていた。

 俺は旅支度を終えた仲間たち全員を集めた。リナとセリシアは、その場の重圧に、不安げな表情を浮かべている。


「……出発する前に、全員に話がある」


 俺は意を決して口を開いた。


「昨日の戦闘、そして、その後の状況。その全ての責任は、リーダーである俺にある。俺の判断が甘く、パーティを危険に晒し、皆の間に、不要な溝を作ってしまった。……すまない」


 俺は、エルン、セリス、レオナルド、そしてルナに向かって、深く頭を下げた。

 仲間たちは何も言わなかった。ただ、その視線が、俺の次の言葉を待っている。


 俺は顔を上げ、今度はリナとセリシアを真っ直ぐに見据えた。


「リナ、セリシア。君たちの、俺たちを慕ってくれる気持ちは、ありがたいと思っている。だが、ここは戦場だ。俺たちの旅は決して遊びじゃない」


 俺の声は自分でも驚くほど、冷たく、そして硬質だった。


「君たちの行動は、善意からだとしても、結果として仲間を危険に晒した。これから向かう魔族領は、これまでの道程とは比較にならないほど危険な場所だ。そこでは、ほんの少しの連携の乱れが、全員の死に繋がる」


 俺は、そこで一度、言葉を切った。


「だから、新しいルールを決める。君たちは、今後、常にカズエルの後方に待機すること。戦闘が起きても、俺からの直接の指示がない限り、絶対に前に出てはならない。いいね?」


「……はい」

「……わかり、ました」


 リナとセリシアは涙を浮かべながらも、小さく頷いた。

 その様子を見届けた俺は、最後に、レオナルドへと視線を向けた。


「……これが、今の俺の答えだ。これでも不満か?」


 レオナルドは俺の目をじっと見つめ返してきた。

 数秒の、長い沈黙。やがて彼は、ふっと息を吐き、一度だけ、強く頷いた。


「……それでいい。ならば、行こう」


 彼のその一言で、パーティの崩壊という最悪の事態は、かろうじて回避された。

 だが、一度入った亀裂が完全に元に戻ることはない。俺たちの間には任務を遂行するための、冷たい、業務的な空気だけが残されていた。


 旅は再開された。

 以前のような軽口も、笑い声もない。ただ黙々と、俺たちは魔族領の奥深くへと、足を進めていった。


 数日が過ぎ、周囲の風景は完全にその様相を変えた。

 生命力に満ちた森は消え、ねじれた枯れ木が墓標のように突き立つ、灰色の荒野が広がっている。空は鉛色の雲に覆われ、地面からは硫黄の混じったような、不快な匂いが立ち上っていた。


「……ひどい場所ね」


 エルンが思わず口元を覆う。


「ああ。生命の気配が、ほとんど感じられん」


 レオナルドもまた、眉間に深いしわを寄せていた。


 その中で、ルナは、ずっと居心地悪そうに俺のローブの裾を掴んでいた。


「……カイン、ここ……いやだ。空気が、どろどろしてる。人の心のトゲトゲが、いっぱい集まってるみたいで……気持ち悪いよ」


 彼女の鋭敏な感覚は、この土地に満ちる負の感情を肌で感じ取ってしまっているのだろう。


 そして、俺たちは、再びその谷の入り口へとたどり着いた。

 眼下に広がるのは見覚えのある、生命の気配が絶えた灰色の巨大な谷。前回訪れた時と変わらぬ、淀んだ空気が漂う「嘆きの谷」だ。


 あの時、救えなかった魂たちが、今もこの谷のどこかで、虚ろな時を過ごしている。その事実が、レオナルドとの一件でささくれ立った俺たちの心に、さらに追い打ちをかけるように重くのしかかる。


 俺は谷底から吹き上げてくる、あの時と同じ、冷たい風をその身に受けながら、今度こそ、悲劇に終止符を打つのだと決意していた。

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