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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十二章 偽りの叡智と王の涙

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第218話 王都への帰還、解呪の儀

 学術都市アーカイメリアで、数日間にわたる知恵を巡る死闘の末、俺たちはついに「解呪の理式」を完成させた。それは、混沌の使徒が仕掛けた、魂を喰らう悪質な呪いを覆す、唯一の希望だった。

 俺たちは休む間もなく王都へと帰還した。最初の被験者として、ロルディアの第一王子アーレストを悪夢から救い出すために。


 王宮へと通された俺たちをレオンハルト王は私的な執務室で迎えてくれた。その表情には、疲労と、そして、かすかな期待の色が浮かんでいる。


「……カイン殿。戻ったか」


「はい、陛下。ご報告いたします」


 俺は、一歩前に出て、深く頭を下げた。


「我々はアーカイメリアにて、かの精神操作を解くための『解呪の理式』を完成させました」


 その言葉にレオンハルト王は息を呑んだ。


「……まことか」


「理論上は完全なものです」と、カズエルが冷静に付け加える。


「ですが、実際に試したわけではありません。実行には相応のリスクが伴います」


 俺は王の目を真っ直ぐに見つめた。


「だからこそ、陛下にお願いにあがりました。最初の被験者として、アーレスト王子殿下を我々にお任せいただけないでしょうか」


 レオンハルト王は、しばらくの間、何も言わずに窓の外に広がる王都の景色を見つめていた。彼の背中からは、兄を想う一人の弟としての苦悩と、国を導く一人の王としての責任感が痛いほどに伝わってくる。

 やがて、彼は、ゆっくりと振り返った。


「……許す。兄上のこと、君たちに託したい。私にできることは全て協力しよう」


 彼の決断を受け、解呪の儀式は王宮の最も警備が厳重な一室で執り行われることになった。

 部屋には複雑な防御結界が何重にも張られ、外では王都騎士団が、蟻一匹通さぬほどの警備体制を敷いている。

 そして、その中央に、一人の男が静かに椅子に座らされていた。

 第一王子アーレスト。

 その瞳は虚ろで、焦点が合っておらず、時折、意味の分からない言葉を、うわごとのように呟いている。かつての傲慢な王子の面影は、どこにもなかった。


「……始める」


 カズエルが儀式の主導者として低い声で告げた。

 彼は完成させた解呪の理式が記された巻物を広げ、その複雑な紋様を部屋の床全体へと投影していく。白い光で描かれた、巨大で、緻密な術式が、ゆっくりと姿を現した。


「エルン殿。殿下の魂が術式の負荷に耐えられるよう、光の魔力で彼の精神を保護してほしい」


 カズエルが緊張した面持ちでエルンに依頼する。


「ええ。わかったわ」


 エルンはアーレスト王子の傍らに立つと、その額にそっと手を当て、清浄な癒しの光を流し込み始めた。


 俺とレオナルド、セリス、ルナは、そんな二人と王子を囲むように、それぞれの得物を手に警護の任につく。

 部屋の空気が張り詰めていく。


「――解呪理式、第一段階、起動」


 カズエルの宣言と共に、床の魔法陣が眩い光を放った。

 光の線がアーレスト王子の身体へと繋がり、その魂の深層部へと干渉を開始する。


「ぐ……う、ああ……っ!」


 アーレスト王子の身体が激しく痙攣を始めた。その表情が苦痛に歪む。


「エルン殿!」


「大丈夫です! 彼の魂が、寄生したウイルスに抵抗しています! 良い兆候です!」


 カズエルとエルン。二人の異なる知性と力が、一つの魂を救うために、今、融合する。

 部屋を満たす光が、ひときわ強くなった。

 解呪の儀式は、まだ、始まったばかりだった。

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