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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十二章 偽りの叡智と王の涙

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第217話 解呪の理式

 ヴァレリウスの書斎での、知恵を巡る死闘が始まってから、数日が過ぎた。

 俺たち戦闘組は交代で書斎の警護と外部の警戒を続けていたが、セイオンの手の者が現れる気配は一向になかった。まるで、俺たちが禁書庫の奥で立ち往生している様を高みから見物しているかのようだった。


 書斎の中央ではカズエルとエルン、そしてヴァレリウスが、不眠不休で黒い石版の解析を続けていた。


「……ダメだ。この部分の論理構造ロジックが、どうしても解体できない」


 カズエルの焦燥に満ちた声が静かな部屋に響く。空中に投影された理式の紋様は、依然として禍々しい光を放ち続けていた。


 だが彼らは諦めなかった。

 カズエルの論理、エルンの感性、ヴァレリウスの知識。三つの異なる知性が、一つの目標に向かって互いの欠点を補い合い、術式の迷宮を少しずつ、しかし着実に解き明かしていく。

 そして、籠城を始めてから四日目の夜。ついに、その瞬間が訪れた。


「……見えた」


 カズエルが、かすれた声で呟いた。


「魂に寄生する理式の最後の防壁……その、逆転式が」


 彼は震える指で、空中の理式を書き換えていく。エルンが最後の魔力を振り絞るように、その術式に光の力を注ぎ込む。


 パリン、と。

 まるで、薄いガラスが砕けるような、澄んだ音が部屋の中に響いた。

 俺たちの目の前で、禍々しい光を放っていた黒い理式の紋様が、その輝きを失い、霧散していく。そして、その後に残されたのは――温かく、そして清浄な白い光で構成された、全く新しい理式の姿だった。


「……やった、のか」


 俺が呟くと、カズエルは椅子に深くもたれかかり、大きく息を吐いた。


「ああ……。完成だ。これが、奴らの呪いを解くための、『解呪の理式』だ」


 その言葉に、部屋にいた全員から安堵の溜息が漏れた。エルンは、その場に座り込み、喜びと疲労で、その瞳を潤ませていた。


 長い、長い戦いが、一つの結実を見た瞬間だった。

 だが、休んでいる暇はなかった。


「……カズエル、エルン。よくやってくれた」


 俺は二人の肩を叩いた。


「だが、これはまだ始まりに過ぎない。この理式が本当に機能するかどうか、試す必要がある」


 俺の言葉に仲間たちの顔が再び引き締まる。


「最初の被験者は決まっている」


 俺は王都の方向を見据えた。


「ロルディアの第一王子、アーレスト殿下だ。彼を、この呪いから解放する。それが、俺たちが最初に成し遂げるべき、混沌の使徒に対する、最初の『勝利』だ」


「ええ、そうですね」


 エルンが涙を拭い、力強く頷く。


「この力は、そのためにこそ、あるのですから」


 俺たちはヴァレリウスに深く頭を下げ、感謝を伝えた。


「ヴァレリウス様、本当に、ありがとうございました」


「うむ。わしは信じておったぞ。お前たちなら成し遂げると」


 老神官は満足げに微笑んだ。


 俺たちは休む間もなく、帰還の準備を始めた。

 手に入れた、この希望の理式を、それを待つ人の元へ届けるために。

 一行は、再び、王都ロルディアへと急ぎ帰還することを決意した。

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