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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十一章 混沌の使徒

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第209話 王への報告

 王都に勝利の喧騒が響く中、俺たち六人は、レオンハルト王が待つ王宮の謁見の間へと通されていた。

 磨き上げられた大理石の床、壁にかけられた歴代王の肖像画。そこは、先の戦いの爪痕などまるで嘘のように、静かで、厳かな空気に満ちていた。


 玉座に座る若き王、レオンハルトは、俺たちの姿を認めると、自ら立ち上がり、労いの言葉をかけてくれた。


「皆、よくぞ戻った。そして、王都を救ってくれたこと、心から感謝する。君たちがいなければ、今頃、この街は……」


「お言葉、痛み入ります。ですが陛下、我々には、ご報告せねばならぬことがあります」


 俺は彼の言葉を遮るように、一歩前に出た。


「今回の魔獣襲来は天災などではありません。これは、明確な悪意によって引き起こされた、人災です」


 俺の言葉で、玉座の間にいた側近たちに緊張が走る。

 レオンハルト王は、その真剣な表情で、静かに続きを促した。


 指揮を執るように、今度はカズエルが前に出る。


「陛下。我々は学術都市アーカイメリアの禁書庫にて、この世界に広がる『混沌』の正体の一端を掴みました」


 彼は、よどみない口調で、これまでの調査結果を論理的に説明し始めた。アーカイメリア内部に存在する「混沌の使徒」の存在。彼らが信奉する「世界の進化のために、人為的に争いを起こす」という歪んだ思想。そして、その手段として、人の心を操る精神干渉の理式を用いていること。


「先日、私が調査した第一王子アーレスト殿下にかけられていた精神干渉も、嘆きの谷で魔族たちを狂わせていた術式も、そして、今回の魔獣も……すべては彼らの仕業である可能性が、極めて高いと結論付けられます」


 カズエルの報告に王は固く唇を結んだ。


 俺は最後の事実を告げた。


「そして、今回の王都襲来は、俺たちが奴らの秘密――精神操作を解くための『解呪の理式』にたどり着くのを妨害するための陽動でした。奴らは俺たちの行動を完全に把握した上で、この悲劇を引き起こしたのです」


 長い、重い沈黙が、謁見の間を支配した。

 やがて、レオンハルト王は静かに、心の底からの怒りを滲ませた声で呟いた。


「……そうか。兄上の狂気も、この街の惨状も、すべては机上の空論を信じる学者どもの、壮大な『実験』だったというわけか……」


 彼は玉座の肘掛けを、強く握りしめた。


「……許しがたい」


 若き王は、ゆっくりと立ち上がると、俺たち六人を見据えた。その瞳には、もはや迷いはなかった。


「カイン殿。そして、その仲間たちよ。本来であれば、中立都市であるアーカイメリアに、我が国が軍事介入することはできない。だが、このまま奴らを放置すれば、世界そのものが、奴らの実験場と化してしまうだろう」


 彼は決意を固めた。


「よって、私は王の名において、君たちに勅命を与える。――学術都市に潜む『混沌の使徒』を調査し、その首魁である筆頭神官セイオンの陰謀を白日の下に晒すがいい」


 それは、俺たちの個人的な戦いが、王国からの正式な任務へと昇格した瞬間だった。


「王国としても、全面的な支援を約束しよう。資金、物資、そして、いかなる場所へも立ち入りを可能とする、王家の勅許状ちょっきょじょうを授ける。必要なものは何でも言ってほしい」


「その勅命、謹んでお受けいたします」


 俺は仲間たちを代表して、深く頭を下げた。


 謁見の間を後にし、王宮の長い回廊を歩きながら、俺たちの胸には、新たな、そしてより重い使命感が宿っていた。

 俺たちは、もはやただの冒険者ではない。この国の、いや、この世界の未来を左右する、大きな戦いの当事者となったのだ。


「……大変なことになっちまったな」


 カズエルが、やれやれといった口調で、しかしどこか楽しそうに言う。


「ええ。ですが、進むべき道は、より明確になりました」


 セリスの言葉に仲間たち全員が頷いた。


 そうだ。道は決まった。

 俺たちは、再び、あの知の殿堂へと向かう。

 今度は逃げるようにではなく、裁きを下す者として。

 そのための準備を始めなければならない。

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