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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十一章 混沌の使徒

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第208話 勝利の喧騒、賢者の静寂

「……終わった、のか……」


 俺は、まだ魔力が渦巻く自らの掌を見つめながら、呟いた。


「ええ。……私たちの勝ちです」


 セリスが肩で息をしながらも、凛とした声で応える。彼女の《風哭ふうこく》の刃には、まだ竜の血が滴っていた。


「化け物じみた強さだったな。だが、我々の連携がそれを上回った。見事な勝利だ」


 レオナルドが双剣の血を払いながら、戦士としての評価を口にした。


 その言葉にカズエルが冷静な分析を加える。


「……敵の狙い通り、俺たちはまんまとおびき出された。でも、結果として魔獣を討伐し、王都を守った。これはこれで、喜ぶべきなのかもしれない」


 彼のぶっきらぼうな言葉には、カインの決断を認め、仲間たちの奮闘を称える、彼なりの誠実さが込められていた。


「やったー! やったよ、カイン!」

「カズエルも、すごかった!」


ルナが疲労も忘れたかのように、カズエルの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。


 その時だった。

 どこからか、一つの、か細い拍手が聞こえた。

 物陰に隠れていた、一人の騎士だった。その拍手は、すぐに二人、三人と伝播していく。やがて、建物の影や、瓦礫の陰から姿を現した王都の民たちが、堰を切ったように、俺たち六人に向かって、割れんばかりの歓声と拍手を送ってきた。


「うおおおおおっ!」

「魔獣が……倒されたぞ!」

「英雄だ! 双冠の英雄が、王都を救ってくださった!」

「《百閃》様! 《神授の媒介者》殿も!」


 広場は熱狂に包まれた。

 恐怖から解放された人々の純粋な感謝と賞賛の渦。その中心に俺たちは立っていた。

 だが、その喧騒の中で、俺は一人、別のことを考えていた。


(これほどの死闘だったのに……カイランの気配は一度も感じなかった。俺の内に宿した闇の力も、ピクリとも動かなかった。……ただ眠っているだけなのか? それとも……もう応えてはくれないのか……?)


「カイン殿!」


 人混みをかき分けるように、あの騎士団長が駆け寄ってきた。彼は俺たちの前で兜を取り、深く、深く頭を下げた。


「……言葉もない。貴殿らがいなければ、今頃、この王都は……。この御恩は、王都騎士団、生涯忘れぬ」


 彼の目には涙が浮かんでいた。


「顔を上げてください。俺たちは、やるべきことをやっただけです」


 俺がそう言うと、彼は「だが」と何かを言いかけたが、それを遮るように、王宮からの使者が、息を切らして俺たちの元へたどり着いた。


「カイン様! 皆様ご無事で! 国王レオンハルト陛下が皆様をお待ちです。至急、ご登城を、と」


 王への報告。

 そうだ、俺たちには、まだやるべきことがある。この戦いの意味を、そして、この戦いを引き起こした真の敵の存在を伝えなければならない。


 俺は仲間たちを見回した。皆、疲弊している。だが、その瞳には同じ決意の色が宿っていた。


「……行こう。王宮へ」


 俺たちは歓声の中を、ゆっくりと歩き始めた。

 英雄として、王都の民に称えられながら。

 しかし、その心の中では、次なる戦い――知の殿堂に巣食う、本当の敵との対決を見据えていた。

 この勝利は、まだ序章に過ぎないのだから。

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