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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十一章 混沌の使徒

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第191話 友の来歴

 王都の屋敷の談話室は、仲間たちの新たな称号への賞賛と、和やかな笑い声に包まれていた。だが、その空気も、俺が切り出した「学術都市」の名によって、再び静かな緊張を取り戻す。


「カズエル、改めてお前の口から全員に話してほしい」


 俺は親友の目を真っ直ぐに見据えた。


「以前、俺には概要だけを話してくれたが……お前がどうやってこの世界に来て、あの学術都市と関わることになったのか。その詳細を、今ここにいる全員が知っておく必要がある」


 俺の言葉に、エルン、ルナ、レオナルド、そしてセリスの視線がカズエルへと集まる。

 カズエルは、それまでの飄々《ひょうひょう》とした表情を消し、遠い目をして、カップの中のハーブ湯を見つめた。


「……ああ。そうだな。今までは、ただの昔話にしかならないと思っていた。だが、敵の正体が見えてきた今となっては、これは俺個人の過去じゃない。……俺たちがこれから戦う相手の本質に関わる話だ」


 彼はそう前置きすると、静かに語り始めた。


「俺がこっちに来るきっかけは……お前の死だった、竹内」


 その言葉に、エルンたちが息を呑むのがわかった。


「お前が死んだって報せをニュースで見た。都内のアパートで、孤独死だった、と。信じられなかったよ。昨日まで馬鹿話してた親友が、もういない。その事実が、どうしても受け入れられなかった」


 カズエルの声は淡々としていたが、その奥には、今も消えない喪失感が滲んでいた。


「しばらく、何をする気も起きなくて、ふらふらしてた。……それで、気づいたら、昔お前とよく行った、あの山奥の神社にいたんだ。神隠しの噂があった、古びた鳥居のある、あの場所に」


「……ああ、覚えてる」


「お前のために、一杯だけ、そこで酒を飲もうと思った。誰も人がいない、その神社の鳥居をくぐった途端、辺りが濃い霧に包まれたんだ。同時に本殿の奥からは淡い光が漏れていた。ありえない、と思ったが……何かに呼ばれるように、足が勝手にそっちへ向かった」


 彼の記憶が鮮明な映像となって俺の頭にも流れ込んでくるようだった。


「光の中心には、見たこともない紋様――魔法陣が、地面に描かれていた。そして、俺がそれに足を踏み入れた瞬間、世界が反転した。強い力で、魂ごと引きずり込まれるような感覚。……あれは事故じゃない。誰かが意図して行った、召喚の『術』だったんだろう」


 やはり、そうだったのか。カズエルの転移は偶然ではなかった。


「次に目が覚めた時、俺は見知らぬ遺跡の中に倒れてた。そして、身体が若返っていることに気づいた。混乱の中、遺跡の周辺をしばらく彷徨っていると、一人の旅商人が現れて、親切にも俺に近くの街の場所を教えてくれた。それが、学術都市アーカイメリアだった」


「……待て。あまりに都合が良すぎる」


 レオナルドが低い声で呟いた。


「そうだ」とカズエルは頷く。


「今にして思えば、全てが仕組まれていた。俺は意図的にあの都市へと誘導されたんだ」


 カズエルはアーカイメリアでの生活を語り始めた。

 彼は、その類まれな知性と論理的思考力から、すぐに都市の神官たちの目に留まり、神官見習いとして、巨大な書庫で学ぶ機会を与えられた。そこで彼は、精霊魔法とは全く異なる、世界の法則そのものを解読し、書き換える「理式魔術」と出会う。


「俺のプログラマーとしての経験が、理式の解読に役立った。世界の全てが、まるで巨大なソースコードのように見えた。言語も、魔法も、俺は驚くほどの速さで吸収していった。……周りの神官たちは、俺を『異世界から来た天才』だと褒めそやした。だが、それも全て計画通りだったんだろう」


「計画、だと?」


「ああ。俺を召喚した神官のな」


 カズエルは初めてアーカイメリアの門をくぐった、あの日のことを思い返していた。

 途方に暮れる彼の前に、一人の穏やかな物腰の神官が現れたのだという。その神官は驚くべきことに、カズエルが異世界から来たこと、そして記憶を失っていると彼が偽ったことさえも見抜いた。


 そして、その神官は慈愛に満ちた笑みで、こう言ったのだそうだ。


「ようこそ、探求者よ。このアーカイメリアは、あなたのような迷える魂を導くためにある。さあ、ここで世界の真理を学びなさい。あなたのその類まれな知性は、きっと、この世界に新たな『ざわめき』をもたらす、素晴らしい力となるでしょうから」


 その言葉の意味を、当時のカズエルは理解できなかった。

 だが、今ならわかる。


「俺は試されていた。そして、期待されていたんだ。この世界に『混沌』をもたらす、新たな駒としてな」


 カズエルの瞳に冷たい怒りの光が宿っていた。

 彼の物語は、まだ始まったばかりだった。

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