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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十一章 混沌の使徒

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第190話 双つの称号

 学術都市アーカイメリア。その名が談話室の重い空気の中心に鎮座していた。

 世界の理を弄び、影から争いを引き起こす知的な敵。その輪郭がおぼろげながらも見えてきたことで、俺たちの次なる目的は定まった。だが同時に、その道のりがこれまでのどの戦いよりも困難であることを、誰もが理解していた。


「……まさか知の頂点と呼ばれる場所に容疑者がいるなんてな」


 俺が吐き出した言葉に深い沈黙が落ちる。


 その静寂を破ったのはカズエルの、どこか飄々《ひょうひょう》とした声だった。

「まあ、こっちもこっちで、ただ遊んでいたわけじゃない。王都の『ざわめき』なら、一つ片付けてきたところだ」


「ざわめき?」


 俺が聞き返すと、隣にいたセリスが少しだけ誇らしげに、しかし控えめに微笑んだ。


「カイン殿が魔族領へ向かわれている間に、王都で、ある大きな事件が起きたのです」


 二人の話によれば、それは新王の治世を揺るがしかねない、大規模な反乱だったという。


 待遇への不満を募らせた貴族の私兵団が武装蜂起し、王宮へと続く重要な橋を占拠。強固なバリケードを築いて立てこもった。王都騎士団はすぐに鎮圧へ向かったが、橋という地形は攻め手が少数しか展開できず、守りを固めた多数の反乱兵を前に激しい消耗戦を強いられ、戦線は完全に膠着していた。


「騎士団は波状攻撃でじりじりと疲弊していた。このままでは、いずれ押し切られる。俺はそう判断した」


 カズエルは、まるでチェスの盤面を解説するように冷静に語る。


「そこで俺は一つの理式りしきを構築した。この戦況を覆すための、たった一つの活路をな」


 カズエルが構築したのは、彼の真骨頂であるエネルギー変換の理式魔術――《理式・天恵変換エーテルチャージ》。

 橋の上に降り注ぐ太陽光や、川面を渡る風の力といった、尽きることのない自然エネルギーを捕らえ、それを純粋な生命力、つまりスタミナに変換し、特定の一人――セリスに供給し続けるという、前代未聞のサポート術式だった。


「カズエル殿の支援を受け、私は一人で橋の上へと進み出ました」


 セリスが静かに続ける。その瞳には、あの日の戦いの光景が映っているかのようだった。


「他の騎士たちが消耗していく中、私の身体だけは、不思議と力がみなぎり続けていました。疲労がない、ということが、これほどの力になるとは……」


 彼女はカズエルの支援をその一身に受け、ただ一人で反乱軍の密集陣形へと斬り込んでいった。

 次々と襲い来る反乱兵たち。だが、彼女の剣技は一切衰えない。名剣《風哭ふうこく》が閃くたびに、敵の武器が弾かれ、鎧が断たれる。その姿は、まるで疲れを知らない「鉄壁の乙女」。一人対多数という絶望的な状況を、彼女はたった一振りの剣で覆していく。


「彼女の剣閃は、いつしか『百の閃光』と見紛うほどだったそうです。反乱兵たちは、人ならざるものへの恐怖から、やがて戦意を喪失。私が首謀者である隊長を打ち破った時、反乱は完全に鎮圧されました」


 話を聞き終えた俺たちは言葉を失っていた。俺たちが魔族領で死線を彷徨っている間に、この二人もまた、王都で伝説となるほどの戦いを繰り広げていたのだ。


「……すげえな、お前たち」


 俺がようやく絞り出した言葉に、レオナルドが唸るように付け加えた。


「理を操り、一人の戦士を一個師団に変えるか。……恐ろしい戦術だ」


「自然エネルギーを直接生命力に……精霊魔法とは全く異なる、けれど、なんて強力な……」


 エルンもまた、カズエルの理式に純粋な驚きと興味を示していた。


「その結果、だ」とカズエルは少し照れくさそうに頭を掻いた。


「俺とセリスは、王家から、ちょっと大げさな二つ名をいただくことになった」


 天の恵みを人の力へと繋いでみせた、神業の術者――《神授の媒介者しんじゅのばいかいしゃ》。

 ただ一人の剣で百の兵を薙ぎ払った、その超人的な武勇――《百閃ひゃくせん》。


「わー! すごーい! 『神授しんじゅのカズエル』と『百閃ひゃくせんのセリス』だね! かっこいいー!」


 ルナの歓声に談話室の空気が一気に和んだ。


 俺は頼もしく成長した仲間たちを改めて見つめた。

 一人一人が、それぞれの場所で、それぞれの戦いを乗り越え、強くなっている。

 この六人なら、きっと、どんな困難も乗り越えられる。

 学術都市に潜む、まだ見ぬ「混沌」との戦いを前に、俺たちの結束は、かつてないほどに固く、強くなっていた。

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