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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第十一章 混沌の使徒

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第189話 再会と報告

 王都に与えられた屋敷の重厚な扉。

 俺が意を決して手を伸ばし、その扉を叩こうとした、まさにその瞬間だった。

 扉が内側から静かに開かれた。


 そこに立っていたのは、セリスだった。彼女は俺たちの姿を認めると、驚きにわずかに目を見開いたが、すぐにその表情は安堵と、そして再会の喜びに変わった。


「カイン殿……! 皆様も、ご無事で……!」


「ああ、ただいま。セリス」


「おかえりなさい、カイン殿。お待ちしておりました」


 彼女の凛とした声には確かな温かみが宿っていた。


「おー、ようやく帰ってきたか。ずいぶん長旅だったじゃないか。魔族領の土産話、期待してるぜ?」


 屋敷の奥から、聞き慣れた声と共にカズエルがひょっこりと顔を出した。その軽口を叩く様子は、元の世界の親友・松尾そのものだった。


「カズエル! セリス! ただいまー!」


 ルナが二人に駆け寄り、再会を喜ぶ。


 俺は、その後ろに控えていたレオナルドを改めて二人に紹介した。


「こちらはレオナルド・ヴァルディス。俺たちの仲間だ」


「……レオナルドだ。カインの剣の隣で、森の民として共に戦うと決めた」


 レオナルドの簡潔な自己紹介に、セリスは深く一礼し、カズエルは「よろしくな」と興味深げに彼を見つめた。二つのパーティが一つになり、新たな仲間との絆が結ばれた瞬間だった。


 屋敷の談話室。暖炉の火が静かに揺れる中、俺たちはテーブルを囲んでいた。

 再会の挨拶もそこそこに、俺はすぐに本題を切り出した。魔族領での出来事、そして、マルヴェスから得た情報を仲間たちに共有するためだ。


 俺は、静かで、しかし無関心な「灰の集落」の様子から語り始めた。俺が抱いていた魔族への偏見が、いかに浅はかなものであったか。そして、「嘆きの谷」で見た、理由なき憎悪に駆られた魔族たちの悲劇的な争いの様を。


「……彼らは何者かによって心を『熱病』に侵されていた。そして、その元凶となっていた二人を無力化したが……」


 俺は、そこで一度言葉を切った。


「精神操作は解けなかった。俺たちの力では彼らを救うことはできなかったんだ」


 俺の言葉にセリスは息を呑み、カズエルの表情が険しくなる。

 そして俺は、最後の、そして最も重要な情報を告げた。


「その精神操作の術式を分析した者がいる。吸血鬼マルヴェスだ。……奴によれば、あの術式は――『学術都市アーカイメリアの神官どもが使う、古いものだ』、と」


 室内が、シンと静まり返った。

 セリスが信じられないというように呟く。


「学術都市……? ですが、あそこは世界の知の頂点に立つ、中立の聖域のはず……」


「聖域、ね」


 カズエルが冷ややかに言った。


「光が強ければ影もまた濃くなる。アーカイメリアほど、その言葉が似合う場所はない」


 彼は静かに立ち上がり、窓の外を見つめながら語り始めた。


「俺がいた頃から、その兆候はあった。都市の理念である『世界の理の探求』から逸脱し、禁断の知識に手を染める者たちがいたんだ。彼らは人の心や魂すらも、ただの術式の構成要素コンポーネントとしか見ていない。……俺が気づいたのは、彼らが『混沌』――つまり、世界の法則そのものを意図的に乱すことで、何かを成そうとしていることだけだ」


「たしか、俺たちがいた世界では、グレーの魔女って呼ばれてたよな?竹内」

 カズエルは日本語でぼそりと呟いた。


「え?……あ、あぁ!あの島の話に出てきた魔女……か」


 俺はカズエルの言葉に頷いた。マルヴェスの言葉とカズエルの経験が、一つの答えを導き出す。

 俺たちが追うべき敵はアーカイメリアの内部にいる。


「どうやら、俺たちの次の目的地は決まったようだな」


 俺が言うと、仲間たち全員が力強い眼差しで俺を見返した。

 王都での束の間の休息は終わりを告げた。

 本当の敵の輪郭を掴んだ今、俺たちの足は自ずと次なる戦いの舞台へと向かっていた。

 目指すは知の殿堂の仮面を被った、偽りの叡智が巣食う場所。

 学術都市アーカイメリアだ。

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