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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練

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第18話 古文書に記された契約

 村の書庫にこもり、俺たちは『星読の獣と古の契約』と記された古文書を読み進めていた。ライルが慎重に羊皮紙の巻物を広げながら、風化した古代語の文字を指でなぞっていく。


「この書には、かつてエルフの賢者たちが魔法キツネと特別な契約を交わしていたと記されています」


「契約?」


「ええ。古のエルフたちは、星読の力を持つ魔法キツネを『導き手』として尊び、その知恵を借りることで未来の災厄を予測し、森を守っていたようです」


 俺は思わず腕の中のルナを見つめた。ルナはじっと古文書を見つめ、まるで自らの遠い記憶をたどるかのように、静かに耳を傾けている。


「星読の力っていうのは、具体的にどんなものなんだ?」


「ここには『星の声を聞き、時の流れのさざ波を感じ取る者』とあります。彼らは星々の運行や大地の魔力の流れを敏感に感じ取り、これから起こるであろう出来事の兆しを捉えるとされています」


「未来を読む……」


 俺はルナの金色の毛並みを撫でながら考えた。


「もしルナが本当にその力を持っているとしたら……お前は、俺たちに何かを伝えたくてここに来たのか?」


 ルナは俺の目をじっと見つめたまま、静かに口を開いた。


「……まだ、はっきりわからない。でも、感じる……なにか……大きな変化が、すぐそこまで来てる……」


 ルナの言葉に俺は背筋が寒くなるのを感じた。それは、近い未来に何か重大な出来事が起こることを、はっきりと暗示しているようだった。


「カイン殿、この文献の続きに、魔法キツネと契約を交わした賢者がどうなったのかが書かれています」


 ライルが更にページをめくる。そこには、契約がもたらす、より深刻な事実が記されていた。


「『契約は魂の同調なり。星の子(魔法キツネ)は賢者の影となり、賢者は星の子の瞳を通して時を見る。ひとたび契約が極まれば、星の子は俗世の理を離れ、ただ一人の主のためにのみ存在する幻となる……』。つまり、賢者と魔法キツネの関係が深まるにつれ、次第に魔法キツネは自らの意思とは関係なく、賢者の魂と同調するようになっていった……とあります」


「……魂と同調?」


 俺は思わずルナを抱き寄せる。ルナは安心したように俺の腕の中で小さく鳴いた。


「そして、契約が完全に成立したとき、魔法キツネはその賢者にしか存在を認識されなくなるとも書かれています」


「……待て、それってつまり、他の奴らにはルナが見えなくなる可能性があるってことか?」


 ライルは神妙な顔で頷いた。


「もしカイン殿がルナと正式な契約を交わすことになれば、そうなる可能性はあります」


 俺はルナをそっと見つめた。他の誰にも見えず、声も聞こえず、ただ俺のためだけに存在する。それは、あまりにも孤独で、あまりにも残酷な運命ではないか。


「……ルナ、お前はどう思う?」


 ルナは小さく鼻を鳴らし、俺の胸に頭をこすりつけた。


「……カインと……いたい……」


 その純粋な言葉を聞いたとき、俺は決意した。


「よし、契約についてはもっと詳しく調べる。でも、俺は過去の賢者と同じ道を選ぶつもりはない」


 ライルが驚いたように俺を見つめる。


「どういう意味ですか?」


「ルナとの出会いは運命的なものかもしれない。でも、だからといって、契約という形でルナの自由を奪い、未来を縛るのは違う気がするんだ。ルナにはルナの意思を持って生きてほしい」


 俺の言葉を、ルナは静かに聞いていた。


「未来の災厄を予測できなくたっていい。俺たちが強くなって、どんな災厄が来ても森を守れるようになればいいんだ。未来を読むことに頼らず、自分たちの力で戦えるようになったほうが、ずっといいだろ?」


 ライルはしばらく考え込んだ後、目を輝かせて小さく頷いた。


「確かに……それは新しい考え方かもしれません。賢者様の導きに頼るのではなく、我々自身が未来を切り開く……。そう思うと、森の未来もまた変わるのかもしれません」


「そういうことだ」


 俺はルナを撫でながら、改めて決意を固めた。ルナが何を望むのか、どう生きていきたいのか、それを一緒に考えながら道を選んでいく。俺たちの道は、過去の賢者たちとは違う、新たなものになる。そう確信していた。

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