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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練

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第17話 星読の力

 ルナがエルフの言葉を発したことで、俺たちの間に驚きと緊張が広がった。エルンとライルはもちろん、俺自身も信じられない気持ちで、腕の中の小さな仲間を見つめていた。ただの獣ではない、その知性の奥に眠る何かが、今まさに目覚めようとしている。その予感が、肌を粟立たせた。


「……カイン……」


 ルナは俺の名前をもう一度、はっきりとした声音で呼んだ。だが、その瞳にはどこか不安そうな色も見え隠れしている。自らの身に起きた変化に、彼女自身が一番戸惑っているのかもしれない。


「ルナ、お前……どうして言葉を話せるんだ?」


 俺が静かに問いかけると、ルナはしばらく考えるように耳をピクリと動かし、ゆっくりと口を開いた。


「わからない……。でも、カインといると、胸の奥がぽかぽかして……なつかしい感じがするの」


「懐かしい?」


 その言葉の意味を測りかねていると、エルンが記憶を絞り出すように話し出した。


「魔法キツネの中でも、特別な血統を持つ個体は稀に言葉を理解し、話すことができると、何かで見た記憶があります。ですが、それはあくまで神話の時代の話。まさか、現代にその血筋が残っているなんて……」


「それに、カイン殿がルナの本来の名を偶然にも言い当てたことも気になります。まるで、何かの運命に導かれたかのようです」


 ライルもまた、興奮を隠しきれない様子で言葉を継いだ。


 確かに、これはただの偶然では片付けられない。カイランの『名は魂に刻まれる』という言葉を思い出しながら、俺はルナの頭を優しく撫でた。


「もしかすると、ルナの記憶の奥に、何か特別な力が眠っているのかもしれないな……」


 ルナは気持ちよさそうに目を細め、俺の手に頬を寄せた。その仕草は、俺に対する信頼そのものだった。


「……カイン、すき」


 その言葉に、俺は驚きながらも微笑んだ。


「ありがとう、ルナ。……よし、少し調べてみよう。お前のことを、もっと知りたい」


 ルナは小さく頷き、再び俺の腕の中にすっぽりと収まるように丸くなった。その金色の毛並みが、朝日の下で柔らかく輝く。

 エルンは少し考え込むようにしてから、俺に提案した。


「もしルナが特別な存在だとしたら、手がかりがあるかもしれません。村の書庫に、魔法生物に関する古い記録があったはずです」


「古文書……か。それを調べれば、ルナのことがもう少し分かるかもしれないな」


 この小さな魔法キツネに秘められた謎を解くため、俺たちはフィリア村の書庫へと向かった。

 書庫は静寂に包まれ、古い羊皮紙と乾燥したインクの匂いがした。何百年もの知識が眠るその場所は、独特の重厚な空気に満ちている。ライルが慣れた手つきで棚を探り、村の周辺に住まう生物に関する書物をいくつか取り出していく。


「魔法キツネに関する文献は、そう多くありません。彼らは人の歴史とは異なることわりで生きる存在とされてきたため、記録が残りにくいのです」


「その中で、ルナのように知性を持つ個体についての記述は?」


「それが……これです」


 ライルが手にしたのは、ひときわ古びた羊皮紙に綴られた文献だった。表紙には、『星読ほしよみの獣と古の契約』と記されている。


「星読の獣?」


 俺がそのタイトルを読んだ瞬間、腕の中のルナがピクリと反応した。その金色の瞳が、古文書に吸い寄せられるように見つめている。


「この記録には古代のエルフたちが魔法キツネと契約を結び、星の導きを得ていたという記述があります。彼らはただの獣ではない。夜空の星の運行を読み、未来に起こるであろう吉凶の兆しを感じ取る、神聖な『導き手』だったと……」


「未来を読む……?」


 俺は驚きつつも、腕の中のルナに問いかけた。


「ルナ、お前……未来を感じたりするのか?」


 ルナはしばらく考えた後、こくりと頷いた。


「……ぜんぶは、わからないの。でも……たまに、見える。世界に張られた、光の糸みたいなのが、たくさん……」


「見える?」


 俺が聞き返すと、ルナはふわりと尻尾を振り、俺の目をじっと見つめてきた。


「うん。運命は、みんなキラキラした糸でできてる。カインの糸は、その中でもすごく、すごく太くて、まぶしいくらいに輝いてる。そして、これから、もっとたくさんの運命と絡まっていく……そんな感じが、するの」


 その言葉が、俺の胸に深く、そして重く響いた。ルナが何を見たのかは分からない。しかし、この小さな仲間が、俺の旅路において、ただの同行者ではないことを、俺は確信した。彼女は、俺の運命を照らす、星の導き手なのかもしれない。


 俺たちはルナの存在の秘密を探るため、そして彼女が垣間見た「未来」の意味を知るため、さらに古文書を読み解くことにしたのだった。

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