表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/255

第16話 魔法キツネの名は

 翌朝、俺は魔法キツネの穏やかな寝息を感じながら目を覚ました。昨夜、治療を終えた後、キツネは俺の膝の上ですっかり安心しきって眠りにつき、そのまま朝を迎えたのだった。その小さな温もりは、孤独だった俺の人生にはなかった、確かな手応えのあるものだった。


「おはよう、キツネ」


 俺がそっと声をかけると、キツネはゆっくりと目を開け、甘えるように尻尾を振った。まだ傷は癒えていないが、昨日よりも動きがしっかりしている。


「カイン殿、魔法キツネの具合はいかがですか?」


 神殿の庭に出ると、エルンが心配そうに近づいてきた。報告を受けたライルも、少し離れた場所から安堵の表情でこちらをうかがっている。


「昨夜よりはずっと元気そうだ。傷も悪化していないし、水も少し飲んだ」


「それは良かったです。これほど人に懐くとは……やはり、カイン殿が特別な方だからでしょう」


 ライルの言葉に俺は苦笑する。特別なのではなく、ただ目の前の命を見捨てられなかっただけだ。


「このまま『キツネ』と呼び続けるのもなんだしな。こいつに名前をつけてやるか」


 俺がそう言うと、魔法キツネは耳をピクリと動かし、興味深そうに俺の顔を見上げた。


「名前、ですか?」


 エルンが微笑みながら問い返す。


「ああ。これからは俺たちの仲間だ。名前があったほうがいいだろ?」


 俺は魔法キツネの金色の毛並みを撫でながら、少し考えた。月夜の下で出会った、美しい生き物。その輝きを名前に込めてやりたい。


「そうだな……金色の毛並みと、月の光みたいな輝きを持ってるから……『ルナ』ってのはどうだ?」


 その名を口にした瞬間、魔法キツネは俺の顔をじっと見つめた後、嬉しそうに「きゅん」と鼻を鳴らした。まるで、その名前をずっと待っていたかのように。


「ルナ……素敵な名前ですね」


 エルンも優しく微笑んだ。


「決まりだな。お前の名前は今日からルナだ」


 俺がそう宣言すると、ルナは尻尾をふわりと振り、俺の腕に顔をすり寄せた。


 小さな魔法キツネとの新たな絆が生まれた、その時だった。

 俺の意識の奥から、カイランの声が響いてきた。


『ふむ……まさか、お前がその名を選ぶとはな』


(カイラン?)


『お前の偶然の選択には、時折驚かされる。その名、『ルナ』はな……この魔法キツネが生まれ持った、本来の名だ』


(……え? なんだって?)


 思わず俺は目を見開いた。偶然にも、俺が考えた名前が、この子の真の名前だったというのか?


『信じがたいかもしれんが、名は魂に刻まれるものだ。お前がこの名を口にした時、ルナの魂が共鳴したのだろう』


 俺が驚きに言葉を失っていると、腕の中のルナが、ゆっくりと俺を見上げた。その金色の瞳は、先ほどまでとは違う、深い知性の光を宿している。そして、次の瞬間――


「……カイン……」


「えっ!?」


 エルンとライルも、信じられないというように絶句した。ルナの口から発せられたのは、たどたどしいながらも、明らかにエルフの言葉だった。


「ルナ……今、喋ったのか?」


「……うん。カイン……とくべつ……」


「魔法キツネの中でも、言葉を話せる個体は極めて稀だと、古文書で読んだことがあります……」


 エルンが信じられないといった表情で呟く。


「カイン殿、もしかするとルナは、ただの魔法キツネではないのかもしれません」


 俺の胸に新たな疑問と、この小さな仲間への強い興味が湧き上がる。ルナの存在は、これから俺の運命に、そしてこの世界のざわめきに、どう影響を与えていくのだろうか。物語は、また一つ、新たな扉を開こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ