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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第四章 双冠の英雄

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第101話 灯火のそばで

「……カ、イン……?」


 か細い、けれど確かな声だった。

 光の奔流が収まった静寂の中、俺はゆっくりと顔を上げた。目の前で、ルナが薄く目を開け、俺の姿をその潤んだ瞳に映していた。


「……よかった」


 言葉になったのは、ただそれだけだった。全身の力が抜け、俺はそのまま床に座り込みそうになる。


「カイン……あなたの声が……聞こえた……」


 隣でエルンも、ゆっくりと身を起こしていた。彼女の頬を一筋の涙が伝う。夢の呪縛から解き放たれた安堵と、俺が無事でいることへの喜びが、その表情に浮かんでいた。


「ごめん……遅くなった」


「ううん……」


 ルナが弱々しく首を振る。


「ちゃんと、迎えに来てくれた。独りじゃなかった……」


 その言葉に、張り詰めていたものが、ぷつりと切れた。俺はふたりの手を強く握りしめた。温かかった。確かな命の温もりが、そこにあった。


 そのときだった。頭の奥で、静かだが厳しい声が響いた。


『……無茶な術だ』


 カイランの声だった。


『今の光は、お前の魂そのものを代償にした。その反動は大きい。二度と安易に使うな。次はないと思え』


 その言葉と同時に俺の身体を凄まじい疲労感が襲った。魔力切れとは質の違う、魂が削られたような虚脱感。視界が白み、呼吸が浅くなる。


「カイン!? しっかりして!」


 エルンの悲鳴のような声が遠くに聞こえる。俺は、ふたりが無事であることだけを胸に、そのまま意識を手放した。


 次に目を覚ました時、俺は自室のベッドに寝かされていた。窓の外はすでに夕暮れに染まっている。


「……目が覚めましたか」


 枕元にはリゼリアが座っていた。その表情には、深い安堵と、わずかな叱責の色が浮かんでいる。


「丸一日、眠り続けていたのですよ。あなたの魔力、いえ、生命力そのものが極限まで消耗していました。一体、どんな魔法を使ったのですか?」


「……仲間を、助けたかっただけです」


「その代償に、あなたが倒れては意味がありません」


 リゼリアの言葉は厳しかったが、その手は俺の額の汗を優しく拭ってくれた。


「エルンとルナは、もうすっかり元気です。今は、あなたのための食事を用意してくれていますよ」


 部屋の扉がそっと開かれ、お盆を持ったエルンとルナが入ってきた。


「カイン! よかった……!」


 ふたりはベッドに駆け寄り、俺の顔を覗き込む。その目には、もう闇の影はなかった。


「あなたが死んでしまいそうで……心臓が止まるかと思ったわ。でも、ありがとう。本当に」


「うん! カインが助けてくれたから、ルナ、またカインのそばにいられる!」


 差し出された温かいスープを、俺はゆっくりと口に運んだ。疲弊した体に、優しい味が染み渡っていく。


 失いかけて、そして取り戻した日常。

 その温かさを噛みしめながら、俺は静かに心に誓った。この灯火を、二度と消させはしない、と。

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