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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第一章 エルフの森の試練
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第1話 50代無職、エルフに転生す

就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の男。ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?


彼が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。知識と経験を活かして第二の人生を自由に生きようと思ったのも束の間、周囲は大騒ぎ。


「新たな神の導きか!?」「偽物ではないのか!?」


信奉者と懐疑派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。さらに、賢者の後継者争い、秘術を狙う者、そして他種族との対立——。思わぬ陰謀に巻き込まれながらも、50代の知恵と経験を武器に異世界を生き抜く!


異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!


※「カクヨム」にも掲載しています。

 俺の人生は長いこと迷走していた。

 いわゆる就職氷河期世代に生まれ、世間は新卒にすら「即戦力」を求める時代。 なんとか潜り込めた会社はブラック企業ばかりで、心身をすり減らす日々が続いた。 転職を繰り返すうちに履歴書の職歴欄は汚れ、気づけば50代。 最後に勤めた会社を辞めてからは、どこにも雇われず、無職のまま時間だけが過ぎていった。


 そしてある日——俺は、あっけなく死んだ。


 持病の高血圧が原因の脳卒中だった。風呂場で意識を失い、そのまま誰にも看取られることなく。


 次に目を覚ましたとき、そこは見知らぬ場所だった。


 天井は高く、白木と思しき柱が並んでいる。まるでファンタジー映画で見た神殿のような、静かで神聖な空気が漂う空間だった。

 そして——俺の周囲には、揃いのローブを纏った大勢のエルフたちが、俺を見つめながらひれ伏していた。


「……は?」


 何が起きているのか、まるで理解が追いつかない。

 俺を取り囲むエルフの一人、ひときわ壮麗な銀髪を持つ者が、感激に声を震わせた。


「賢者様……! ついに、お目覚めになられましたか……!」


「おお、神のご加護が……」

「長老様が、我らの元へお戻りになられた……」


 口々に上がる驚きと感動の声。だが、俺にとっては異国の呪文のように意味をなさなかった。


(なんだこれは……夢か? それとも、死後の世界ってやつか?)


 混乱しながら自分の手を見て、俺は息を呑んだ。

 白く滑らかで、指は細く、爪はまるで磨かれた貝殻のように整っている。

 ごつごつとして、日に焼けていた俺の手ではない。


(……俺の手じゃねえ)


 おそるおそる顔に触れると、耳が明らかに長いことに気づく。

 まさかとは思うが、これは——。


 俺が戸惑いながらもゆっくりと立ち上がると、エルフたちが一斉にさらに深く頭を下げた。


(なんで俺、こんなに崇められてるんだ?)


 そう思った瞬間、頭の奥に直接、声が響いた。


『ようこそ、我が身体へ。異世界の魂よ』


 落ち着いた、それでいてどこか諦観ていかんを帯びた声。聞き覚えはない。


「……誰だ?」


『私は、この身体の本来の持ち主であった高位エルフ。名をカイランという。お前は、私が試みた秘術の失敗によって、この肉体へと招かれた者だ』


(なん……だと……?)


 状況を整理しよう。俺は死んで、このカイランと名乗るエルフの体に入ってしまったらしい。そして目の前のエルフたちは、俺をその『高位エルフの賢者』として崇めている。


「……ちょっと待て」


 俺は賢者でも長老でもない。ただの、冴えない50代の無職の男だ。

 しかし、俺の戸惑いなど気にも留めず、エルフたちは次々と歓声を上げる。


(まずい。これは、とんでもないことになったぞ……)


 このままでは、ただの虚像として祭り上げられるだけだ。俺はごくりと喉を鳴らし、一歩前に出た。


「皆、少し待ってくれ。ここはどこだ? それに……俺は一体、何者なんだ?」


 シン、と広間に静寂が走る。エルフたちは顔を見合わせ、やがて一人の銀髪のエルフが進み出て、恭しく答えた。


「賢者様は、この聖域にて長き眠りについておられました。我らは賢者様の目覚めを待ち、その導きを仰ぐためにここに集ったのです」


 導き、と来たか。俺に分かるのは、せいぜいパソコンの配線くらいだ。

 俺が言葉に詰まっていると、エルフたちは次々に問いを投げかけてきた。


「賢者様、この地の未来をどう導かれるおつもりですか?」

「後継者問題については、いかようにお考えで?」

「我らに、かつての秘術を再びお授けいただけますでしょうか?」


 次から次へと飛んでくる、俺には答えようのない質問の数々。

 頭が混乱し、ただ曖昧に頷くことしかできない。

 だが、一つだけはっきりと分かったことがある。


(とりあえず……この状況をどうにかしないと、俺の異世界生活は即詰みだ)


 こうして、50代無職だった俺の第二の人生は、エルフの賢者という、あまりにも大きすぎる看板を背負うことから幕を開けたのだった。

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