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落書き事件

 月曜日、僕は朝からそわそわしていた。右手が使えなくなってから、今日が初めての登校日だからだ。

 土日は左手で文字を書いたり、箸の使い方を練習したりしたけど、全然ダメだ。

 文字はガタガタと歪んでしまうし、箸はご飯すらまともにつかめない。同じ手なのに右と左でこうも動きが違うなんて人間の体は不思議だ。



「あれ! 久村その手どうしたんだよ?」



 三年三組の教室に入るとすぐに金田が近寄ってきた。包帯は小学生の興味を引くには十分過ぎるほどの威力をもっている。



「ちょっと骨折しちゃったんだ」



「エッ! 久村骨折したの! なんでなんで?」



 金田が大げさに驚き騒ぎ始めたせいで、教室中の視線がこちらに集まり、包帯に気付いたクラスメイトたちも、興味しんしんといった様子で近寄ってきた。

 僕は皆がもてはやすので、すっかり調子を良くしてしまった。普段はあまりおしゃべりではない僕も、この時ばかりは饒舌になって骨折の理由を説明していた。



「久村くん、骨折って痛いんでしょ?」



 上原は心配そうに僕の右手を見つめている。



「最初は痛かったけど、今は少しも痛くないよ」



 僕は話題の中心になり、楽しい時間を過ごした。こんなことは初めてだから照れくさい感じもあったけど、会話の主役になるのはかなり気持ちが良かった。

 僕より少し遅れてやってきた秋岡も、今回のことを面白おかしく話して聞かせ、みんなの笑いを誘っていた。


 クラス中の注目を浴びた僕は、まるでヒーローにでもなったような気分だった。上原とも会話することができたし、なんだか心がほかほかしている。

 もしかすると、お母さんの言った通り、骨折はお得なのかもしれない。

 

 朝のホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任の藤森先生が教室に入ってきた。僕が骨折したことは既に連絡してあるので、先生は大して驚くこともなく「久村くん大丈夫? 災難だったわねぇ」と軽く触れただけだった。



「はいみんな席に着いて」



 先生の指示に従い、僕たちはそそくさと自分の席に座り、ホームルームが始まる。

 僕の席は窓際の一番後ろ、いわゆる特等席ってやつだ。外は秋晴れの空が広がり、紅葉の始まりかけた木々がさわさわと揺れている。



「今朝、校舎の裏に落書きがされているのが見つかりました。誰か心当たりのある人はいますか?」



 先生の問いかけに、クラスのみんなは周囲と確認し合っていたが、誰も心当たりがない様子だ。



「最近、校内のあちこちに落書きがされています。みんなの仕業じゃないと思うけど、もしそういうイタズラをしている人を見かけたら、すぐ先生に報告してください」



 確かにそう言われてみれば、最近は校舎内でもよく落書きを見かける。人気のアニメキャラクターや殴り書きのような文字が主で、鉛筆で遠慮がちに書かれたものもあれば、油性ペンで堂々と書かれたものもある。


 鉛筆だから良いというわけではないけれど、油性ペンはさすがにまずいと思う。年度末の大掃除で消さなければならないのは、僕たちなのだから。僕はもし犯人を見つけたら、ガツンと一発文句を言ってやろうと心に誓った。


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