地獄の観覧車デートで、お弁当にあたってしまった⋯⋯
新設のテーマパークには『地獄の観覧車』 と呼ばれるデートスポットがある。僕たちも初のデート場に選んだ。
地獄と聞くとひっくり返ったり、凄いスピードだったりを想像しがちだ。しかし、この観覧車はそんな激しい仕掛けはない。
巨大なのに半分地下に埋まっているため、世界一になり得なかった夢の観覧車だ。
「空からの景観と海中水族館を楽しめるなんて素敵な観覧車だね」
よしっ、彼女にも高評価だ。熾烈なチケット予約競争に勝った甲斐があったよ。
「お弁当作って来たから楽しもうね」
観覧車は一周回るのに一時間程かかる。最高のシチュエーションで、彼女の手作り弁当なんて幸せ過ぎるよ。
人気のアトラクションは他にもある。でも『地獄の観覧車』に乗れれば充分だった。
「いよいよだね。私、凄く楽しみだったの」
彼女も知っていたようだ。この観覧車が別名『試練の揺りかご』 と呼ばれている事を。これに乗って無事に一周したカップルは幸せになれる噂。
観覧車に乗り込んだ僕たちは、さっそく買ってきた飲み物をテーブルに置き対面に座る。一時間もあるけれど、ずっと彼女を見つめていられるよ。
ゆっくりと観覧車が動いているため、揺れはあまり感じない。人目のある地上を離れたあたりで僕たちは初めてのキスを交わす。
ヤバい、幸せ過ぎて死にそう。
「ダメだよ。まだお弁当もあるんだから」
幸せに浸り過ぎてお弁当を忘れていたよ。
「変わった色の俵型のおにぎりなんだね。こっちはタコさんウインナーか」
「へへっ、私一人で作ったんだよ」
「では、いただきます」
僕は薄緑の一口俵おにぎりを頬張る。
「うっ⋯⋯」
塩と砂糖を間違えたレベルじゃない。凄く苦くて不味い。彼女も一つ取って口にしたのに平気そうだ。
「お味はどう?」
「旨いよ」
僕はお茶で無理やり流し込み、嘘をついた。タコさんウインナーなら大丈夫だろう‥‥そう思ったが辛かった。
「あっ、当たりだね。おにぎりも、おかずも全部ロシアンルーレットになってるの」
えっ、マジか? いや待て、さっき食ったの漢方か何かか?
食中りに似た、猛烈な腹の痛みが始まる。
「身体に良いと思って‥‥ごめんなさい」
可愛い⋯⋯。でも何故、初デートの『地獄の観覧車』 で、ある意味危険な遊び心を取り入れたのさ。あと三十分は逃げられないんだよ?
僕は土気色になりながら試練の時を耐えた。当たりを知る彼女はもちろん無事だ。天然でいたずら好きな彼女を地獄に落とさずに済み、幸せは守られたよ。
お読みいただきありがとうございました。