理導術の基礎 2
僕達3人は教室で昼ご飯を食べることにした。ほとんどの生徒は食堂に食べに行くか、購買で買ったご飯を屋上や校庭の端っこにある大きな木の付近で食べることが多いので、教室には余り生徒がいないことがほとんどだ。実際僕達も殆どは食堂で済ませることが多いのだけど、静かな場所で今日のことを話し合いながら食べたかったので教室で食べることにした。
チーは僕と同じく弁当を持ってきている。ソフは用事の関係で弁当を準備してもらうことができなかったらしく購買から弁当を1つと紙袋に入った何かを買ってきていた。
「それじゃあいただきます!」
「「いただきます。」」
まずチーが勢いよく弁当を開けるとニコニコしていた顔が一気に複雑な顔になった。
「肉より野菜多くしてって言ったのに同じくらい入ってる…。」
チーの弁当箱を覗いてみると主食のワドハ炊き、何らかのソースがかかった恐らく鳥肉、そして炒められた様々な野菜が入っていて、綺麗に3等分で入っていた。
「チーは本当に野菜好きだよね。」
「そりゃそうだよ!だって栄養あるし、見た目も色も全然違うし、味も違うんだよ?それにどれだけお腹いっぱい食べても身体が動かしにくくならないしね!」
「僕はやっぱり肉が好きだな、ソフは特に特別好きっていうのはないんだっけ?」
「そうね、私は食材自体に好き嫌いはないわ。食材を調理して完成した料理については好みはあるけど。」
と、ソフの意見を聞きつつ僕の弁当箱を開けてみる。2段重ねになっていてまずは下の段から確認してみる。
「プノーの弁当は肉がいっぱいだね、よかったね!」
下の段には肉が多く入っており端っこのほうに野菜が少しだけ入っていた。うーん、この弁当を作ったのはジャハ母さんかな?ブジウ母さんだと栄養バランスとか言って肉の量を減らして野菜とか果物とか魚を入れてきそうだし。そう思いながら上の段を開けるとワドハ焼きが2個入っていた。
「チーはワドハ炊きでプノーはワドハ焼きなのね。主食は2人の好物だからよかったじゃない。」
最後にソフが購買で買ってきた弁当箱を開けた。中に入っていたのは豚肉と野菜の甘辛ソースとワドハ炊き弁当という購買の人気弁当の1つだ。更にもう一つの袋を開けると中からは鳥肉と激辛ソースのワドハ焼き包みが2個、牛肉と塩胡椒の串焼きが3本出てきた。
「今までに何回も話してると思うけど、ソフってそんなに食べてお腹壊さないの?」
「ええ、大丈夫よ。家でもこのくらいは普通に食べてるし。」
と、ソフの大食いに毎回驚かされる僕達。
「そうだ、おかずの交換をお願いしたいんだけど、いいかしら?」
チーは野菜の量に文句があったし、僕は久しぶりに購買の弁当を食べてみたかったので喜んで交換した。チーはソフの弁当の中の野菜と自分の弁当の肉を、僕は自分の弁当の肉とソフの弁当の肉の一部と牛肉の串から一片を交換した。
「購買のごはんは久しぶりに食べたけど悪くないね。味が濃いからワドハ焼きよりワドハ炊きが欲しくなるよ。」
「うん、確かに美味しいね!今度購買でご飯買おうかなー。」
「2人のお母さんのご飯も美味しいわよ。食堂や購買だけじゃなくてみんなで弁当を持ってきて食べ比べするのもいいかもしれないわ。」
「うん、そういうのもいいかもね。じゃあ今度日付を決めてそれぞれの母さんに頼んで作ってもらおう。」
「いいねそれ!賛成!」
そんなやりとりをしていると3人共ほぼ同じタイミングで食べ終わった。ソフは1番量が多かったし僕とチーと同じ速さで食べてたと思ったのにどうしてもう食べ終わってるんだろう?まあ、いつものことだから気にしても仕方ないか。午後の練習が始まる時間になりそうなので、校庭へ移動しよう。
「そろそろ移動したほうがいいと思うけど、先にトイレに行かない?」
「私も行くー!」
「それじゃあ私も行くわ。」
3人でトイレに向かって歩き始めた。この学校も一般的な公共施設と同じように男性用、女性用、フモソキ族用のトイレがあるのだが、田舎のほうだと男性用、女性用の2種類しかないところがあるらしい。
(そういう場所に行ったら僕はどっちに入ればいいんだろ?)
僕は生まれてから今までこの都市から出たことがない。まだそういう経験がないけど、いつかその場面に直面する可能性はある。後で母さん達に聞いてみよう。
僕はフモソキ族用のトイレへ、チーとソフは女性用のトイレへ入った。トイレから出て2人と合流してから校庭へと向かう。どうやら早めに来ていたツホォーフ先生に午前中力を貸してもらうことができなかった子達が教えてもらっているらしい。
「はい、その調子です。そのままですよー…。はい、成功です!今成功した時の感覚は覚えていますね?一度感覚を掴めばもう大丈夫です。午後の授業が始まるまでもう少し時間があります。繰り返し練習してみましょう。」
その後何回か試していたが、毎回成功していたのでコツを掴んだんだろう。その様子を眺めていると残りの生徒達も集まってきた。ほぼ全員が集まると午後の授業を知らせる鐘が鳴る。その鐘の音に合わせる様に学校から急いで走ってくるヒト影がちらほら見える。
「はい、午前の続きをしましょう。先程早めに校庭へ来て練習して成功したヒトもいますが、まだのヒトも焦る必要はありません。まだ時間はたっぷりありますから。それでは始めてください。」
8割程の生徒は成功しているようだ。この調子だとすぐに全員できるようになるだろう。
「先生ー、練習すれば先生みたいに4つの理の力を一気に使うことができるようになるんですか?」
チーが先生に質問した。ゆっくりとはいえ理の力を切り替えられるので新しい練習をしたいんだと思う。まだ僕達はそこまで出来てないんだけど。
「それではチイマさん、同時に2つの理の力を貸してもらうことはできますか?」
先生にそう言われ集中し始めるチー。
「あれ、1つも貸してもらうことができない!?」
どうやら流石のチーにも同時に2つの力を貸してもらうことはできないようだ。先生はうんうん、と頷くと今度は自分で2つの力を貸してもらっていた。
「これはまだ先の段階まで出来るようにならないと無理ですね。1つの理導術を発現させることが出来たら覚え始める内容です。ですからまだ出来ないのは当然でしょうね。しかしこの調子だと皆さんすぐに理導術を使えるでしょうから焦らずに頑張りましょう!」
どうやらチーと先生のやりとりの最中に僕達の学級は全員できるようになったみたいだ。2人のやりとりが終わるのを見計らってできました、という声が上がった。
「皆さん中々飲み込みが早いですね。正直なところ全員できるようになるのは今日丸一日かかると思っていたので驚きました。とても素晴らしいです!私が初めて習った時は苦手な人は本当に苦手で最終的にできるようになるまで3日程かかりました。私としては早く理導術の勉強をしたかったので、出来なかった人達を手助けしていました。その人達からは感謝されましたけど、当時の私はともかく理導術のことばかり考えていましたので今となっては恥ずかしい限りです。それに」
「先生、時間はまだありますけど今日は次の段階の練習をするんですか?」
先生がまた暴走しそうなタイミングでソフが質問をしてくれた。このままだとまた話が長くなりそうだったのでソフに感謝したい。
「そうですね、まだ時間がありますし明日から練習しようと思っていたことをやりましょうか。」
チラッとソフを見るとソフはホッとした様にため息をついていた。どうやらソフも先生の脱線気味の長話を止めたかったみたいだ。
ツホォーフ先生は真面目だし面倒見もいいので、生徒からは人気があるのだけど、話をしている時に興味のある内容や昔のことについて長話してしまう癖がある。どうでもいいときは話を聞き流せばいいけど、こういう時にまでやられるとすごく困る。
「さて、理導術を発動する基本の2つ目になります。まず、皆さんが今できるようになった力を貸してもらう状態がこれです。」
先生は腕を伸ばし手の平を上に向けると、青色のもやを出した。
「この状態から貸してもらった力を自分の発動したい術式へと変換する必要があります。」
すると青色のもやは消えてしまった。
「今色が消えただけでまだ理の力は私に残っています。よく見てください、透明ですがもやの様なものが揺らいでいるのが見えますよね?」
先生の手の平の上をじっと見てみると、透明ではあるけどゆらゆらと何かが漂っているのがわかる。
「術式へ変換している間はこのようになります。そして発動させるともやは完全に消えます。貸してもらっていた理の力を使ってしまうからですね。」
先生は手の平から水の柱を発動させた。下から上へ水が流れているが1番上が水の玉のように丸くなっている。ある程度の大きさになると下から昇ってくる水はなくなり今度は下へと流れ始めた。先生の手の平の少し上まで落ちてくるとまたそこで水の玉になった。
「ついでに発動まで皆さんに見せましたが、発動はまだ大丈夫です。今日は変換までにしましょう。」
先生の手の平にあった水の玉は一瞬で消えた。その代わりに今度は茶色のもやを出したが、すぐに透明になった。
「まずは理の力を貸してもらってください。次に貸してもらった力を自分の身体の中に留めておくイメージを持ってください。先程力を貸してもらった際に自身の理力が抜けた代わりに理の力が体内に入ってきている感覚があると思います。それを自分の身体から逃がさないように頑張ってみましょう。」
先生は話をしている最中ずっと透明なもやを維持していたけど、話し終えるともやを消した。
「それでは始めてください。私は皆さんの近くを見回っているので、何かあったら声をかけてくださいね。」