表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

僕達の新たな日常

 とうとう待ち望んでいたこの日がやってきた。個人証明書へ理力適正を刻印し正式に理導術を扱うことを許される日が。理導術を使用できる年齢はその年の10歳になる子達である。10歳になるのであれば始春生まれだろうが終冬生まれだろうが関係なく上春の時期に、国から許可が降りる。何故10歳なのかと言われると、色々な説があるらしいがよく言われているのは9から10へ1桁から2桁へ変わってキリがいいから、というのがある。


「おはよう!プノー!」


 そう元気に挨拶をしてくれたのは幼馴染のチイマ・アウだ。ヤクジトオ族特有の2枚の羽が今の気分を代弁するかの様にパタパタと動いている。


「おはよう!チー!」


 結局の所そういう細々したことはどうでもよくて、僕もチーも今日という日を心待ちにしていたのだ。とくにここ最近は時間があれば適正はどうなるんだろうとか、どういう理導術を使いたいなどの話をずっとしていた。


「私もプノーも今日を楽しみにしてたもんねー。私なんか昨日わくわくしすぎて、夜寝れなくてお母さんに怒られちゃったよ。」


「それは僕も一緒だよ。昨日寝たのは30時過ぎてたもん。」


「ふふふ、やっぱりそうだよね!いやー、楽しみだなー!でも講義受けなきゃいけないんだっけ?」


「講義って言っても今まで勉強してきたことの復習だからあんまり難しくはないでしょ。」


 などと話しながら歩いていると学校が近づいて来た。校門をくぐり案内板の誘導の通りそのまま特別教室へ向かう。特別教室は通常の教室より座席数が多く、他の学級の人達と合同で勉強するときなどに使われる。

 今日は僕達の担任のツホォーフ先生が理導術についての講義をするらしい。特別教室中には少し早めに登校した僕達よりもさらに早く来ていた生徒が何名かいた。


「先生一旦熱入っちゃうと話が長くなるからなぁ、最近かなり気合いを入れてたし、講義の時間を超えちゃいそうな気がする。」


「さすがに他の先生が止めに入るだろうし大丈夫だと思うよ。」


「そうだよね?じゃあ大丈夫か!」


 2人で理導術について話しているといつのまにか時間が過ぎ講義の時間になっていた。教室の入り口からツホォーフ先生が入室し、教壇へと向かって行った。


「皆さん、おはようございます。」


「「「「「おはようございます!!」」」」」


 ゴカト族のツホォーフ先生は見た目は僕達とほぼ変わらない子どもだが17歳の立派な大人だ。


「皆さん元気ですね。確かに私も皆さんと同じ様に初めて理導術を学ぶ時はうきうきしていましたからその気持ちはわかります。ですが理導術は時には自分も他人も傷つけることがあるのも忘れてはいけません。理導術を扱う以上いい面と悪い面を理解し、適切な術の行使をすることで生活の発展と万が一に自分や知り合いを助けるための術であることを忘れないようにしましょう。それでは講義を始めます。皆さんこの1年間で理導術の基本の勉強はしてきているはずですから簡単にやっていきましょうね。」


「うわ、これ絶対長くなるやつだ…。」


 隣でチーが頭を抱えている。確かに先生を見てみるとわすがに頬が赤くなっており、先程の話し方もいつもより早口気味だった気がする。


「まあ、今日までの時間を考えれば全然短いから頑張ろうよ。それに先生のことだから居眠りしたりよそ見してたりすると問いを当ててくるからきちんと聞いてたほうがいいんじゃない?」


「そういえばそっかー、仕方ない。我慢するか。」


 それから2人共姿勢を正して先生を見た。


「さて初めに理導術の基礎について説明しましょう。自然の理である火、水、風、土。この4つの理の力を借り、制御して自らの望んだ現象を引き起こす。これが理導術です。また理導術を行使する際に理を制御するのに消費されるのが私達の体の内側から湧き出る理力です。理力には適正があります。これは種族や遺伝には左右されずに完全な個人差があります。」


 先生は黒板に要点だけを書いている。とりあえず真面目なふりをするため真剣に話を聞いてるような振りをすることにした。


「適正が高ければ高いほど理導術を行使した際の効果が大きく理力の消費が抑えられますが、理力が低いと理導術の効果が小さくなり、理力の消費が大きくなります。たまに勘違いしている人がいますが、適正が低いからといって理導術が使えないというわけではないということを忘れないようにしてください。あくまで効果の低下と理力の消費が大きくなるだけです。」


「はい、先生!低い適正を上げる方法はないって聞いたんですけど、やっぱり上げれないんですか?」


 違う学級の子が先生に質問した。


「そうですね、正直なところ現状は不可能ですというしかありません。実際低い適正でも何度も理導術を使えば身体が慣れて適正が上がるだろうと数年の間努力した人がいます。残念ながらその人達は個人的には良くなったと思うと言うのですが、きちんとした機関で調べた所適性が変動したと判断された例は1つもありません。」


「やっぱりダメなんだ、この後の適正検査で低かったら嫌だな…。」


と、その子は落ち込んでいるみたいだ。しかし先生は話を続ける。


「確かに理力適正が低いと理導術を扱う効率は落ちます。ですが、皆さんよく覚えておいてください。先程言った通りあくまで効率が落ちるだけです。使えないわけではないんです。」


 先生はチョークを置くと話出す。


「皆さんはキイコヌモ鉄功司を知っていますよね?」


 その言葉に真面目に話を聞いていた者も、半分居眠りをしていた者も隣の友人と話をしていた者も一様に先生へ視線を向けた。この国で生きてる人なら誰でも知っているであろう有名人だ。

 ウドス・キイコヌモ。傭兵斡旋組合のトップの傭兵で、様々な秘境の探索や戦いに参加し、数多の功績を挙げているプレホツ族の男。それらの功績が評価され、とうとう国頂陛下直々に平民が得られる名誉では最高位である鉄功司の位を与えられるなど誰もが憧れる存在だ。また、いかつい見た目でありながら謙虚で礼儀正しいといったギャップも人気の理由である。


「そう、我々平民の英雄であるキイコヌモ鉄功司です。知っている人もいるかもしれませんが、彼は風への適正が普、残りの適正が低と理力適正は低めです。」


 生徒達から知っている、知らないなどの声が上がった。ある程度生徒達が静かになると先生は話を続けた。


「彼は理力適正が低かったのですが、理導術の使い方が非常に上手です。以前国で参加者の制限なし、身分差による忖度なしの舞踏大会が国頂陛下の主導で開催されました。武器や肉体を使った戦闘を好む者、理導術を多彩に扱える者など、参加者は様々でしたが彼はその大会で優勝しました。」


 先生は当時を思い返すように目を軽く瞑って話をしている。


「彼はプレホツ族特有の長く逞しい腕による格闘と身の丈程の大剣、そして理導術を用いて戦いました。大会への出場時点で我が国の傭兵斡旋組合の最上位でしたから、今まで培われた戦闘方法で勝利していきました。そんな彼の理導術の使い方はほとんどが隙を潰すためのものでした。攻撃した時の隙、相手が有利な時にその有利を取り払う時などに理導術を使い勝利を得ました。勿論隙を潰すだけではなく攻撃の手段として理導術を使っています。」


 先生はまたチョークを持ち先程質問した子を見ている。


「つまりは使い方が大事なのです。仮に傭兵となって理導術を使いたいなら、余り理力を消費しない理導術を使い、最後の一撃に特別に理力を消費した理導術を使うなどでもいいでしょう。私は傭兵として理導術を行使したことはないのでわからないので、こんなことしか言えません。そして、もう1つ話しておくことがあります。」


 そう話すと先生は黒板の理力と書かれた所に追加で文字を書き足した。


「それは理力の適正自体は変わることはありませんが、理力の量自体は増やすことができるのです。先程の適正が変動しなかったという話ですが、理力の最大量自体は増えていたそうです。つまり理導術を使えば使う程自身の理力の絶対値は増えていきます。つまり適正が低くても理力を増やすことで適正の低い理導術でも問題なく使えます。」


 そこで先生は教室にいる生徒をぐるりと見ると微笑んでこう言った。


「ようこそ、理導術の世界へ!私は勿論のこと、世界も新たなる理導術の使い手の誕生を喜んでいるでしょう!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ