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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百周目の勇者と異世界転生した私
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5.私の旅

「では、作戦会議を始めます」


 オリさんの信教の自由を脅かす女神の元を去ってから三日、私たちは野宿がてら、これからのことを考えることにした。

 オリさんはいつも通り堂々としたものだが、カシェルは未だしょっぱい顔のまま、どことなく落ち込んでいる。

 そして私は、正直言えば途方に暮れている……いや、暮れていた。


「女神のこと蹴っちゃってこの先どうしようかと思ってたんだ。

 けど、よくよく考えてみたら、オリさんはあの女神の加護なんざ無くとも、ちゃんと魔王のすぐそばまで行ってるんだよ」

「そうなのか?」

「うん。でもどうやって行ったのかがわからないんだよねえ……」


 そう。ゲームの次代勇者は、あの女神に貰った加護の神聖パワーで、魔王城を取り巻く瘴気の壁を乗り越え、魔王の元へと向かったのだ。

 だが、オリさんが信仰という人生の根本に関わる分野で女神とモノ別れした今、その方法で魔王城へ凸ることはできない。

 いったいどうしたものかと頭を悩ませていたのだが――考えてみたら、ゲームで次代勇者がオリさんに追いつくのは、魔王城の中だった。

 つまり、ゲームで女神解放をしたのは次代勇者のほうであり、オリさんはあくまでも女神の加護なしであの壁を突破できていたということだ。


 オリさんは少し難しい顔になって考え込んでしまう。

 パチッと音を立ててはぜる焚火を見つめて、私は枝切れを焼べた。


 ――そもそも、冷静になって考え直してみると、私が知ってる攻略法は次代勇者の攻略法で、オリさんの攻略法ではなかったのだ。

 おまけに、年代的に事情が変わっている部分もあって、次代の攻略法がそのまま全部使える保証もない。


「っていうかさ。あの女神の話が本当だと仮定しても、アレ、そこまでパワーあるのかなって疑問は残るんだよね」

「……たしかに、否定できない」


 オリさんの顔が渋面になる。

 カシェルもしょっぱい顔のまま頷いた。

 私は溜息を吐いた。


「――女神様は、この世界を見捨てて自己保身に走ってたのでしょうか」

「さあねえ」


 カシェルが思い詰めたような表情に変わる。

 女神は魔王に封じられてしまった――というのが定説だったのに、まさか自分で引き篭もっていたとはな。


「でも、そこはあんまり問題じゃないと思うけどな。

 実は女神自身を断固守らないと世界が滅ぶとかでやむを得ず、って可能性もあるんだし。よくわからないのに深く考えすぎないほうがいいんじゃない?」

「それならしかたないと思えますけど……」


 カシェルは胸に下げた“力の御印(パワーシンボル)”をじっと見つめる。

 ――カシェルの“神官(ミスティック)”としてのパワーはカシェルの信仰心と女神が源だ。

 ここでカシェルの信仰が揺らいでしまうのはまずい。


「ともかく、どうしても気になるなら、全部終わったあとで女神のとこ凸って問いただせばいいんじゃない? 私も付き合うから」


 はあ、とカシェルはどうにも冴えない顔色で頷いた。

 見かねたのか、オリさんも「あの女神も、ままならない状況に追い詰められていたのかもしれんしな」と、慰めるようにカシェルの肩を叩く。

 ――というところで、私は肝心なことを思い出してしまった。


「あ、やべ」

「サーリス殿?」

「やっべ、そもそも正攻法が無理だったかも」


 オリさんが首を傾げ、カシェルも顔を上げて私を見る。


「オリさんて、テレポートの魔法は……」

「使えないが?」

「だよねえ! やっぱそうだよね! 使えたら家に顔出してるはずだもんね!」


 この世界のテレポートは、どんな遠方にも一瞬で移動できる強力な魔法だ。そのかわり、行き先にできるのは、自分自身が一度でも行ったことのある町限定なのだが。


「移動アイテムもあるにはあるけど、私もカシェルもそもそも森出たの初めてだし、もちろんオリさん家がどこかどころかオリさんの世界すら知らないし……」

「サーリス、何ぶつぶつ言ってるんですか」

「だいたい、アレって魔王の影倒したらご褒美にゲットできるやつだし……無しで戦ったらどんくらいかかるんだっけ?

 もしかしてレベルカンストしなきゃダメ?」

「サーリス?」


 カシェルにゆさゆさ肩を揺すられて、私は思いっきり大きな溜息を吐いた。


「とてもとても、心の底から残念なお知らせがあります」

「サーリス殿、いったい……?」

「対魔王戦はベリハモードになります。今から死ぬほど魔物狩りまくってレベル上げないと、たぶん勝てません」

「――は?」


 アレがないと、本気でガチガチに防御固めた魔王と戦うことになるじゃないか。

 やれやれとこめかみを揉み解す私の前で、オリさんとカシェルが訳がわからないという顔で私を見る。


「べりはもーどというのは、いったい……」

「また妄想言語ですか? ちゃんと説明してください!」

「えーと、つまりね」


 私は説明した。

 オリさんのいた世界で、天空に浮かぶお城の女神に“光のカケラ”をもらっておかないと、魔王戦がとんでもない難易度になるということを。

 そう、光のカケラさえあれば魔王にかかってるバフをいっきに全部剥がしながら戦えるが、なければバフてんこ盛りの本気魔王を相手に持久戦を強いられるのだ。

 はっきり言って面倒くさい。

 勝てないことはない……はずだが、ものすごく面倒くさい。

 薬やらアイテムやらも最大限以上に用意しなきゃならないし、こっちのレベルだって上げられるだけ上げなきゃジリ貧でやられることになる。

 もちろん、今はゲームみたいなステータス画面はないので、実際どれだけ頑張ればレベルカンストと言える強さになったかがわからない。

 今、自分がどれだけのレベルかなんてわからないのだから。

 とはいえ、最低限、そこらの魔物百匹に囲まれても鼻歌歌いながら返り討てるくらいの強さにならなければ、話にもならないことは間違いない。


「だから、私たちがやらなきゃならないのはふたつあるわけ。

 ひとつは、魔王城に凸るためのパワーを見つけること。もうひとつは、私たちひとりひとりが魔物に囲まれても無双できるレベルで強くなること。

 最低でも、あの塔で戦った魔物に三重くらい囲まれても、こっちはほとんど無傷で返り討ちにできるレベルにならなきゃいけない」


 真剣に無茶を述べる私に、オリさんもカシェルも思いっきり顔を引き攣らせた。



 * * *



 私たちの毎日魔物百本ノックが始まった。

 あちこち移動しては、地域の魔物を狩り尽くす勢いでとにかくひたすら戦いまくるという、殺伐生活である。

 ゲーム中のレベラゲリアル版、みたいな状況と言えばいいだろうか。

 魔王城の壁を破るためのパワーは、考えてもわからなかったので一時棚上げだ。


 ……それにしても、ゲームでもないリアルで何年もこんなことやるとか、絶対心が荒んで人間辞めたくなるんじゃなかろうか。

 三人だからいいようなものの、ひとりなら間違いなく病んでいたはずだ。

 ゲームのオリさんは、よくもまあ、ひとりきりで魔王城にカチ込めるほど強くなれたものだと感心する。

 私なら、途中で「もういいかな?」と魔王なんて放置して、スローライフに切り替えてただろう。これが妻子持つ男の使命感というやつか。


「オリさんの武器も、もうちょっといいやつにしないとねえ……」


 私は、だいぶくたびれてきたオリさんの剣と鎧を眺めた。私も、弓と矢筒はともかく鎧はそろそろ替え時だ。

 うーむと考える。

 オリさんには、ここで一発、そのパワーと実力に見合った武器に持ち替えて欲しい。エルフ製長剣がいかに良いものとはいえ、オリさんにはやはり力不足だ。

 勇者の最終装備を横から奪うことになってしまうけれど、やはり宝箱を取りに行った方がいいだろう。


「よし。ダンジョン行こう。

 今あるかどうかの保証はないんだけど、いい感じの剣があるダンジョンと、いい感じの鎧があるダンジョンに心当たりあるんだよね」

「ダンジョン、ですか」


 毎日毎日回復とバフを魔力が尽きるまで使わされているカシェルは、これ以上になるのかと呟いてうんざりした表情を浮かべた。

 カシェル用の装備のバージョンアップも考えたいが、彼は司祭より魔法使いに近いから、あまり重い鎧を着れないのがネックだ。

 いっそ魔法系職業がよく着ている、対魔抵抗装備で揃えた方がいいかもしれない。どうせ殴られないなら防御より抵抗だろう。それなら買い物で済ませられるし、毎日の魔物狩りで資金なら潤沢だ。


「やっぱ武器が先かな。攻撃は最大の防御って言うしね」

「サーリス理論ですね……」

「まずは、ダンジョン十周して内部構造理解しつつあらかた魔物潰したあとに剣を取る。で、休憩して魔力回復したら、さらに十周ずつ五日くらい頑張って、それから鎧のダンジョン向かおうか。

 ちなみにそのダンジョン、麻痺とか毒みたいな状態異常攻撃バンバンしてくるえげつない奴が多いから、そこは注意してね」


 最近能面みたいになってたカシェルの顔が、またしょっぱいものに変わった。

 オリさんも「本当に大丈夫だろうか」と呟いて、暗い空を仰いでいた。


DQ3で、やり込み系の友人がラスボス戦を光の玉無しと勇者ソロとで、それぞれ2時間くらい頑張ったけど無理だったわ――と笑顔で報告してくれたことを思い出しました。

私は勇者&遊び人3人でどこまで頑張れるかやってたことがあります。

遊び人の本気の遊びはキツかったですね……。

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