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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
千年目の邪神復活と滅亡する世界

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21.大抵の問題を解決する方法

 世界を救う伝説の勇者ゴリラがこの町にやってきた。

 もう、これで安心だ。

 もうすぐ魔物はいなくなって、ふたたび地上へ戻れるようになるのだ。


 町へ入った三人を迎える歓声は、おおむねそんな内容だった。

 “死の台地”に隠れ潜んでいた邪教団が表舞台に現れ、魔物が跋扈するようになってからずっと、この町は“死の台地”にもっとも近い町として危険にさらされ続けてきた。それは、地下に移住してからもずっとだったらしい。

 だから、“伝説の勇者”の末裔が、伝説のとおり“勇者”となって邪教と教団の崇める邪神に対して立ち上がったと知り、熱狂しているのだ。


「あたしたち、まだ勇者ゴリラじゃなくてたまねぎ勇者リラリラだけど、いいのかな?」

「将来的にはゴリラになるのだからいいんじゃないでしょうか」

「なんかプレッシャーすごい」


 あれやこれやと歓待を受けながら、三人は恐縮する。

 たしかに王の直系で勇者の子孫だとはいっても、ここまでもてはやされるのは初めてなのだ。そのうちすごい反動が待っていそうで落ち着かない。

 引っ張られるようにして中に招き入れられて、夜は夜で町を挙げての大宴会で……まだ何もしてないのにこんなことでいいのだろうか。


 ――そして、夜が明けた。




 宴会に乗じて、ザールとロッサは近隣の状況や南大陸の事情についてあれこれと聞き出した。だが、わかったのはとおり一辺倒のことばかりだ。邪教団の様子はもちろん、“死の台地”の登り方もわからないままだった。

 けれど。


「邪教団の本拠が近いからか、昔っから誘いがあるんだよ」

「誘い?」


 宴会で酒が入った男が、そう教えてくれた。

 その男は、邪教の誘いを受けて危ういところまでいったけれど、誘惑をギリギリのところで蹴り飛ばして戻ってきた……というのが自慢なのだと言った。


「今いる森の神は女神から世界を奪った偽物の神だ。だから、一緒に本当の神を呼び戻そうっていう誘いだ。呼び戻して、偽物にいいようにされたこの世界なんか一度滅ぼして、本当の神と一緒に新しい世界を作るんだとよ」

「え……?」

「そんな誘いにほいほい乗るヤツは早々いないが、ゼロじゃないんだよな」


 だから、教団には人間もいて、魔物と共闘しているのか。そしてつまり、創世の女神は邪神となって終末の女神に変わったってことなのか。


「――もし教団に入りたいって思ったら、どうするんですか」

「は? まさか勇者の子孫が教団に?」

「いえ。単に、どうやって入信の意思を示すのかと気になっただけです。まさか“死の台地”のあの崖を登るわけではないでしょう?」

「ああそういうことか。そりゃ、隠された神殿があるんだよ。で、その神殿を探し出して、洗礼を受けるんだそうだ」

「へえ」


 さすが、「ギリギリのところで戻ってきた」というだけあって詳しい。

 その神殿が、東の海にうかぶ火噴き島の地下にある、というところまで知っていた。おおかた、その島に渡る危険に怖じ気づいて入信を断念したとか、そういうことなんだろうとも伺えた。




「そこに殴り込んで教団の信者をしばいて台地の登り方聞けばいいんだね!」

「でも、そこ、しょっちゅう火を噴いてそこら中に溶岩のある、天然の環境攻めしてくる地形ですよ」

「あの環境攻め試練、必要だったんだ……」


 さすが勇者を育てる者サーリスの作った試練である。無駄がない。

 三人はそんなことを考えて溜息を吐く。

 有用な魔法具や魔導書より先に、どうしたって試練のほうが必要だということがわかってしまったのだ。その火噴き島にあるという邪教の神殿へ行くよりも“千尋の谷底”の試練をクリアするほうが、どう考えたって先だろう。


 でも、どうやってあの過酷な“環境攻め”に耐えればいいのか――黙り込んでしまったふたりに、カタリナが「レベラゲしよう」と言い出した。


「うちのお城に、先代勇者ゴリラ、カステル様の言葉が飾ってあるんだよ。“ちからこそパワー”とか“大抵の問題はレベラゲで解決する”とか」

「いや、それって……」

「だからうんとレベラゲしよう。このあたりの魔物があたしたちのこと見たら泣いて逃げ出すくらいレベラゲしようよ。そしたら、かんきょうぜめもなんとかなるかもしれないよ」


 武器の柄をぐぐっと握りしめて、カタリナが断言する。レベラゲしてもっと強くなれば、環境攻めだって絶対恐るるに足らずだから、と。


「そしたらあたしたちが立派な“勇者ゴリラ”なんだし、火噴き島の神殿に行って、邪教団壊滅して“死の台地”に殴り込みもできるよきっと」


 カタリナの力強い言葉に、ふたりは思わず頷いてしまった。

 本当に可能なのかどうかはわからないけれど、カタリナの言葉にはなぜか強い説得力があった。



 * * *



 それからは、南大陸中を歩いてレベラゲをする日々が始まった。

 もちろん、見つけたダンジョンとおぼしき塔や洞窟はすべて攻略した。

 あわよくば、熱さや冷たさに耐性の得られるような魔法具とか高位魔法の魔導書やらの期待もしたが、早々うまく行くわけはなかった。

 だから結局、レベラゲで体力を鍛えまくった上にそこそこの防御の加護を施して、どうにか熱いのも冷たいのも耐えられるようになるまで頑張ろうという――あまり賢いとはいえない作戦だった。


 とにかく魔物と戦い、「そろそろいいかな」と思ったところで勇者ゴリラの試練に臨み、やっぱり駄目だったとまたレベラゲをする――そんな単純作業(ルーチンワーク)を延々と続けた。

 あまり強くなった気はしないのに魔物の殲滅速度だけは上がり続けているので、最近は自己認識が少しおかしいかもしれない。


「飽きてきたな」

「わかってたけどなんか荒むね」

「魔力はかなり上がりましたし、もう少し加護を重ねてもいけそうですね」

「俺、次から加護の並行運用やってみようと思う」

「なら僕の加護はフォロー程度にして、それ以外の補助と攻撃に回りましょう」


 毎日毎日魔物を倒して、数日続けたら試練に挑み、失敗したらこうして振り返りをして次回への糧にする。

 が、ひと月もすると、やっぱり飽きてきてしまった。

 そろそろ何か変化がないと行き詰まってしまいそうだ。


「空飛べたらいいのになあ」

「滑空はできるから――」

「ねえ、強い風吹かせてそれに乗っかれれば、高いところ登らなくてもよくならない? 風の魔法あるよね」

「ありますけど、そこまで強い風は難しいですよ」

「でもさ、レベラゲして魔力増えたんでしょ? 練習してもいいんじゃない?」


 カタリナがどうにかして空を飛び回れないかと粘るけれど、ザールはあまり気が進まないらしい。


「正直言うと、それだけの風を起こすとなると、魔力がかなり必要なんですよ。それに制御も難しいんです」

「そうなの?」

「だから、いくら魔力が増えたからといっても、そううまくはいきません」

「つまんなーい!」


 つまんないつまんないと繰り返すカタリナに、ロッサも小さく溜息を吐く。


「ザール、少し練習するくらいはいいんじゃないか? 何かの役に立つかもしれないしさ」

「そうですね。すこしくらいなら……」


 根負けする形で、ザールもしぶしぶと頷いた。


 そこから、また毎日毎日レベラゲしては試練に挑戦して空を飛ぶ風起こしの練習をして……と、毎日を忙しく過ごした。

 最初は無理過ぎると感じていた試練も、じわじわと先へ進めるようになった。レベラゲすれば大抵の問題は解決するという言葉に嘘は無かったらしい。

 ようやく、自分たちの努力は無駄じゃなかったんだと実感が湧いてきて、三人はますますレベラゲに没頭するようになり――


『おめでとう! これで君たちは立派な勇者ゴリラです!』


 “千尋の谷底”にパンパカパーンというファンファーレが響き渡り、三人は気が抜けたようにへたへたと座り込んだ。

 南大陸に渡ってもう三ヶ月が過ぎようとしているころだった。


「あたしたち、とうとうゴリラになったんだ。もう、たまねぎのリラリラじゃないんだ」

「よかった……絶対無理だと思ってたけど、よかった……」

『はーい、それでは勇者ゴリラになったひとに、勇者セットを進呈しまーす!』

「やったー!」


 いつものように、ボスのいた場所にせり上がった祭壇には大きな宝箱が鎮座していた。カタリナがよろこんで駆け出すが、ザールにもロッサにも止める元気はない。どうしたらあんな元気が残っているのかと感心してしまう。


「見て見て! 勇者ゴリラの剣と鎧と盾!」

「それ、カタリナしか使えないと思いますから、カタリナが使ってください」

「鎧はロッサも着られるんじゃないの?」

「いや、カタリナが最前線なんだからカタリナが使った方がいいよ」

「うーん、わかった。あ、他にもあるよ」

「他に? でも、勇者ゴリラの武具は、今ので全部じゃ?」

「でもあるもん。鎧じゃないやつ!」


 ここにあるのは勇者ゴリラの伝説の武具だけのはずだ。なぜなら、過去、勇者ゴリラはひとりしかいなかったのだから。

 ロッサとザールは顔を見合わせ、よろよろと立ち上がった。


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