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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
千年目の邪神復活と滅亡する世界

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4.謁見

 ドラゴンの王ヴォルトギーハリは、端的に言ってしまえばやたらと気さくなドラゴンだった。「この(ひと)も、昔はやんちゃでねえ」と語る王のつがい、ドラゴン妃グリトランディヴォーもだ。

 いつものように、(おもり)を仕込んだ剣を振り回し名乗りをあげるカタリナに、「あらあらまあまあ」と何か懐かしいものを見るように目を細めるくらいには、三人に友好的でもあった。


「とっても元気で、あの頃のあなたを思い出しますわ」

「やめてくれ、グリトラよ」


 ちょっと恥ずかしげにぷいと顔を背ける王に、うふふと笑う妃。

 仲良きことは美しき哉、である。

 ロッサもザールも自分たちはいったい何を見せられているのだろう、とか思わないわけでもない。


「それで、本題なのですが」


 挨拶も済んだところで、ザールはさっそく切り出した。


 ここを訪れた目的は、試練の洞窟で手に入れたメモの内容についての心当たりを得ることだ。女神の使徒と親交が深かったドラゴンなら、きっと何か知っているだろう……とアテにして、ここまで来たのだ。


「世界のどこかにある空を飛ぶ手段に、“死の台地”へ登る洞窟を開く鍵……」


 さすがのドラゴンも荒唐無稽な話すぎて首を傾げる。

 これはアテが外れてしまったかと、三人も肩を落とした。


「――そういえば」


 だが、王は何かを思いついたのか、急に手を打った。


「ずいぶん昔に、空を飛ぶ研究をしているという魔法使いだか錬金術師だかが西のほうから訪ねて来たことがあったな」

「そんなこともあったわね」


 夫妻が顔を見合わせる。

 三人はパッと顔を上げ、期待に大きく目を瞠る。


「それが“空を飛ぶ方法”ですか!」

「本当に飛べたかどうかまではわからん。我の翼を観察したいからしばらくこの城に滞在させてくれと頼みこんで来たのだ。別にかまわんと許可をだしたが、やたらとなで回すのでくすぐったくて仕方がなかった」

「そうそう。たしか、西の塔から来たと言っていたけど、どこの塔かまでは覚えてないわねえ」

「西の塔……」


 そんな魔法使いだか錬金術師の塔なんて、いくつもないだろう。

 なら、西で聞き込めばどうにか探せるんじゃないだろうか。


「それから、“死の台地”の鍵だが」

「はい!」

「さすがに何も思い当たらん。だが、“死の台地”の入り口なのだろう? 邪教の信徒しか知らぬのではないか?」

「――それは、たしかに」


 ザールとロッサは顔を見合わせた。その横で「じゃあ、魔物か教団員を捕まえてしばいて吐かせればいいってことだね!」とカタリナがさらに剣を振り回す。

 魔物ならともかく、潜伏する教団員を見つけて捕まえるなんてそう簡単なことではない。それに、魔物相手にどう話ができるのか――とロッサは考えたが、カタリナが言うととても簡単なことのように思えてくる。

 そこでふと、思いついた。


「あ、月影の国を襲った教団員から聞き出せばいいんだ」


 今ならロッサの故国は邪教団と魔物からひっきりなしの襲撃を受けている。

 おそらくだが、捕らえた教団員も何人かくらいはいるだろう。あの母と姉なら情報を得るくらいたやすいはずだ。

 ザールも同じことを考えたのか、笑顔でうんと頷いた。


「そっちは手紙を送って頼んでおこう」

「これでちょっと目処は立ったかな」


 荒唐無稽すぎて何から始めれば……ほかのふたつの試練の洞窟でひたすらレベラゲするくらいしか浮かばなかったけれど、ちょっとだけ光明が見えた気がする。

 これならなんとかなるかもしれない。


「ふむ――我の眷属であるドラゴン族なら我の命を聞く。我の鱗を持つ者に協力せよと通達しておこう。何か困ったことがあれば、ドラゴン族を探すとよい」

「ありがとうございます!」


 ようやく笑顔になった三人に、ドラゴン王もにいっと目を細める。


「では本題だ。お前たちには、これを渡しておこう」

「――え?」


 ドラゴン王が差し出したものを見て、三人は目を丸くする。


「これは以前勇者ゴリラがここへ置いていった“光のしずく”だ。故あってここへ置かれることにはなったが、いつか必ず何かに必要になるときが来るのだろうと考えていた。きっと、今、お前たちに必要なものなのだろう」


 輝く宝玉をひょいと渡されて、ザールは絶句する。

 まさか、伝説の“魔王の力を奪うため、神より齎された宝玉”を、今、ここで受け取れるなんて、と。


「これは……ありがとうございます、ドラゴンの王」

「なに、我はただ預かっていただけだ。これで義理は果たせたな」

「すごい……神聖で、大きな力を感じる」

「めちゃくちゃまぶしいね」


 三人は、身の引き締まる思いでドラゴンの王に頭を垂れた。



 * * *



 まずは、ドラゴンに西の大陸へと送り届けてもらった。そのついでに空から見えた目立つ塔に目星をつけて、その近くの町で下ろしてもらう。




「“死の台地”って、ドラゴンの王様に頼んで飛んで連れてってもらったらいいんじゃないの?」


 カタリナがそう言ったが、ドラゴンの王は首を振った。

 “死の台地”の頂上は雲を突き抜けるほど高く、おまけに、空を飛ぶ魔物も多すぎる。さすがのドラゴンでもそこを飛んで登るのは難しいのだと。

 そうそううまくはいかないなと、ロッサとザールも少しがっかりした。

 だが、使徒サーリスの書き残した「空を飛ぶ方法」なら、その問題も解決するのだろう。がっかりするのはまだ早い。




 目立つ塔……町から少し離れた海岸沿いにそびえ立つ塔は。大地からにょきっと生えた、少々いびつな角のように見えた。町で聞けば、昔、少々変わり者だった魔法使いだか錬金術師だかが建てたものだという。

 なら、期待は持てるかもしれない。


「ただね、最近はあのあたりも魔物の巣窟になってしまって」


 じわじわと増えた魔物は、今は無人となったその塔を棲み処に決めたようだった。以前はあまり見なかったような強い魔物すら姿を現すようになって、最近は誰も塔へは近づかないのだという。

 ロッサとザールとカタリナは、なら、その塔の魔物を駆逐するのも自分たちの役目だろうと結論を出した。


「レベラゲにもなるしね!」


 カタリナは意気揚々と、やっぱり剣を振り回す。

 鞘につけた錘はいったいどれくらいの重さなのだろうと気になったが、ロッサはあまり考えないことにした。最近、ただの棒きれのように振り回すようになったとも思ったが、そこも考えないことにした。

 直接攻撃に関するゴリラでは、きっと、カタリナの右に出るものはないだろう。


 とはいえ、町で聞いただけではどの程度の魔物がいるかはわからない。

 まずは偵察も兼ねつつ様子見するのが良いだろう――ザールの言葉にふたりも頷いて、しばらく帰らなくても大丈夫なくらいに食料やら何やらと準備を済ませると、即、塔を目指したのだった。




「こういうの、威力業務偵察っていうんだよね!」

「威力偵察です。業務って何のことですか」


 さっそく襲ってきた魔物に応戦しながら、カタリナがうれしそうに言う。

 旧大陸で出会った魔物よりも強いことがうれしいらしい。あんなにヨワヨワじゃ鍛錬にもならないと、よくこぼしていたから。

 そして、長丁場になると踏んだザールは、魔法を出し惜しみするようになった。今は時間に追われているわけではない。このあたりを跋扈する魔物についてちゃんと知っておく必要があるのだ。

 魔物の種類にもよるが、基本的に、外をうろつくような魔物は近隣で一番弱い、最下層の魔物であることが多い。塔に潜む魔物は住み処を定められるだけの頭と強さのある魔物であり、今相手にしている魔物より数段以上強いだろう。

 だから、冷静に考えて、このあたりの魔物を多数相手にしても十分以上の力を遺して倒せなければ、塔の魔物には通用しないはずだ。


 カタリナは、あれこれと戦いかたを試しつつ、剣を振り回す。

 錘は鞘ごと落とされている。


 ――本当は、鞘を付けたままでも倒せるくらいになりたいらしい。

 錘と鞘を落とす前、「捨てないと勝てないのくやしい」と何度もこぼしていたから、間違いない。これはロッサの想像だが、ゆくゆくは鞘と錘を付けたままでも塔の魔物に勝てるくらいにはなりたいんだろう。

 どこまでゴリラになるつもりなのか。


 ロッサは杖の火炎魔法を放ちながら、呆れた目でちらりとカタリナを見た。


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