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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
千年目の邪神復活と滅亡する世界

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3.ドラゴンの城へ

 この世界は安定している。


 その昔、未熟な女神が創った未熟な世界はまだまだ不安定だった。

 だからこそ、魔王なんてものにつけ込まれ、荒らされてしまったのだ。

 だが、未熟な女神からこの世界を引き継いだ神によって、世界は熟し、安定した。もう、外から魔王などという存在が入り込めないくらいに。


 だが、世界は創世期を抜けてしまった。だから、もう神が直接この世界に介入することはできない。ただ、信仰と神官を通じて導くのみ。


「人々が何を信仰しようと自由……そこを突かれたんですよね」


 はあ、と溜息を吐く。

 本来、この世界を創世したのは女神で、その女神からすべてを引き継いだのは父神である森の神フォルケンセだ。ゆえにこの世界の信仰は女神とフォルケンセの二柱で、時間をかけてゆるゆるとフォルケンセに収束されていくはずだった。


 なのに、なぜか破壊と破滅を司るという邪神への信仰が入り込んだ。

 いつからなのかはわからない。けれど、この世界が安定してすぐだ。今から百年を少し越えるくらい前か。


 その信仰は、世界に魔王ではなく邪神そのものを呼び込んだ。そして邪教団を作り上げ――どこにどう潜伏していたのかは知らないが、気づいた時には閉ざされた“死の台地”に本拠を作り上げるほどの規模に成長していたのだ。


 ともかく、それでも世界は邪神に勝利する。

 なぜなら、“勇者”たちが邪神に勝利し、世界が平和と繁栄を手にする未来がすでに起こったものであると、サーリスが知っている(・・・・・)から。


「手を出せないことが、とてももどかしいですが……」


 はあ、とまた大きな溜息を吐く。

 だが、考える時間はいくらでもあるのだ。

 いつか来るその日のために、考えておかなければ。



 * * *



 竜の鱗はすんなり借りられた。

 カタリナの武具も一新したし、ザールとロッサの防具も可能な限りよいものをあつらえたし、王城にある呪文書もあれこれ借りて準備は整った。

 まずはドラゴンの王に会うため、旧大陸の北側を最速で踏破してドラゴン王の城を目指した。

 途中、魔物に遭遇はしたが、思うほど足止めされずに済んだのはあの洞窟の試練のおかげだろう。

 たぶん。


「なんか、戦いがつまんなくなった」


 カタリナはそう不満を漏らし、野営の時も町に滞在する時も毎晩のように重りを付けた剣で素振りをしている。

 その重りは城でわざわざ鉛を固めて作らせたもので、つまり旅の間も背負ったまま歩いているということで――カタリナはいったいどこを目指すつもりなのかと、ロッサは少しだけ引いている。


「まさかあの試練だけで、この旧大陸は懸念なく歩けるほどに強くなれたってことでしょうか」

「“勇者を育てる者”の二つ名はダテじゃないってことか」


 カタリナの力だけではない。

 ザールの魔力も上がっている。それに、カタリナのようには無理だと言いつつも、ちょっとした攻撃なら避けられるほど動けるようになったし、体力もついた。

 ロッサだって、立て続けに秘蹟を使っても以前ほどには消耗しなくなったし、“時の神の神官(クロノマンサー)”と同時に“武装神官(ウォープリースト)”と名乗っておかしくないくらいには杖術の腕も上がった。

 これが「勇者にふさわしい力を身につける“レベラゲ”を行った結果」というものなのか。こういう計算のもとにあの洞窟の試練を構築したというなら、さすが女神の使徒と言わざるを得ない。




 旅は順調に進んだ。

 南北の旧大陸を結んでいるトンネルは、ドラゴン王の妃が魔王の呪いを避けて隠れていたと伝わる大洞窟が元だという。現在までも整備と拡張は進み、今では大きな馬車がひっきりなしに南北を行き来する、重要な街道にもなっている。


「世界が危ないっていうけど、あんまりそんな感じしないね」

「月影の国は旧大陸を挟んで逆側だ。まだ大きく伝わってないんだよ」

「そっかあ」


 それに、月影の国は、女王と王太女の魔法と王配の指揮する騎士たちの力で、いったんは教団と魔物の軍勢を退けたのだ。今は小康状態とはいえ、皆が楽観的になるのも無理はない。


 大街道をしばらく進んだ後、枝道を抜けてドラゴンの王の領域に入ると、すぐ城へは到着した。

 だが、どうみてもがれきが転がるだけの廃墟にしか見えない。


「ねえ、ドラゴンの王様って、ほんとにいるの?」

「――地上の玉座の間に、隠し階段があって地下に入れるってあったんですが」

「どこが玉座の間か、これじゃぜんぜんわかんないよ」


 壁も天井もすっかり崩れ落ちている。調度なんてとっくに朽ち果てて欠片も残ってない。これじゃ、玉座の残骸すら見つからない……


「いや、あった」


 なぜか、玉座だけは残っていた。

 床石とわずかに残った壁からアタリを付けて進んでいたザールが、たしかに玉座の置かれた謁見の間らしき広間の跡を探しだして、数段高くなった場所に置かれた「玉座」としか形容できない大きな椅子を指さした。


「たぶん、玉座自体に何かの魔法がかかってるんでしょうね」

「ああ。魔法の物品は、基本的に朽ちたりしないから」

「へえ……」


 それほど手間取らずに玉座を見つけられて、ザールはほっとした顔になる。

 カタリナがその横をするりと抜けて、玉座に駆け寄った。


「この近くに地下に行く階段があるはずです。手分けして――」

「あっ」

「えっ」

「いたぁーい!」


 探しましょう、というザールの言葉を待たず、うろうろと玉座の周りをうろついていたカタリナの姿がいきなり消えた。

 続いて、どすんという鈍い音がする。

 どうやら床石にヒビでも入っていたらしい。床を踏み抜いたカタリナは、そのまま地下に転がり落ちたのだ。


「重りなんか持ち歩くから踏み抜くんだよ!」


 ロッサが慌てて駆け寄ると、穴の中でいててと言いながらカタリナが立ち上がるところだった。下は暗いが、穴から差し込む光でどうにか影は見える。


「……階段、これじゃないですか?」


 覗き込んでカタリナを確認したロッサの横で、ザールが感心したように呟いた。言われてみれば、たしかに苔の生えた段々が下へ伸びている。


「カタリナの怪我の功名ってやつですね」

「つまりあたしのおかげ? あたしのおかげでドラゴンの王のところ行ける?」


 立ち上がってあちこち身体を動かして怪我もないことを確認したカタリナが、「じゃ、早く行こうよ!」と、さっそく剣を抜いて振り回した。




 地下は、意外にも魔物なんてひとつも出てこない、清浄な空間だった。

 長いこと閉ざされていたはずなのに空気は澄んでいるし、壁から染み出る水もきれいだ。


「ドラゴンの王は聖なる竜の末裔だと伝わってますから」

「王様が清めてるから、こんなにきれいなんだ?」


 ザールの説明に、カタリナは感心した顔できょろきょろと周囲を見回す。

 たしかに神聖な気配も感じられて、ロッサも頷いた。少なくとも、ここで魔物の襲撃を受けることはないだろう。


 階段を降りきって、通路を何度か曲がると、両側の壁に飾り円柱で装飾された大きな通路に辿り着いた。

 きっと、これが王のもとへ続く通廊だ。

 そう考えるくらい、立派な大廊下だった。


「少し休憩してもいいかもしれないな」

「え-? でも、早く王様に会いたいよ?」

「そりゃそうだけど、ここまでろくに休まず来たじゃないか。それとその剣しまえよ。いらないだろ」

「魔物出ないって思ったら、なんかちょっと手慰みがほしいと思ったんだよね」

「だからって剣振り回すなよ」


 ここまで何もなく来れた。もう安心だと、ロッサとカタリナはわちゃわちゃおしゃべりしながら歩く――が、ザールが急に「黙って」と鋭く囁いた。

 ふたりはぴたりとおしゃべりを止めて、ザールの示す方向へと目を向ける。


「あれ、たぶん王の間じゃないかな」


 大廊下の突き当たりには、どこかドラゴンを思わせる古めかしい彫刻で飾られた、とてつもなく大きな両開きの扉があった。


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