表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
千年目の邪神復活と滅亡する世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/66

1.試練の洞窟

「はあ!? なんで入り口に戻ってるの!? なんで!?」


 破邪の国の姫であり、三人の中でも一番の剣の使い手(のうきん)であるカタリナが虚空に向かって拳を振り上げ、力の限りに叫ぶ。

 無理もない。

 この“試練の洞窟”の最奥にある加護の泉にようやくたどりついたと思ったのに、次の瞬間には入り口の小部屋に引き戻されていたのだから。

 ――しかも、どこからともなく響いた「時間かかりすぎ! やり直し!」という言葉と共にだ。



 * * *



 月影の国から王都襲撃の報を持ち、火輪の国と破邪の国を回ったロッサは、その場で即「時は来たれり」と判断した二国の王たちにより、“試練の洞窟”と呼ばれるところで“勇者の加護”を得て勇者となるようにと言い渡された。

 火輪の国の王子ザールと、破邪の国の姫カタリナとともに、だ。


 なんでも、破邪の国にも火輪の国にも「その時が来たら、三人揃って“試練の洞窟”に挑み、最奥の聖なる泉で“勇者の加護”を得なければならない」と言い伝えられていたらしい。

 なんだそれ、そんなの聞いてない――とロッサは思ったが、おそらくは母が伝え忘れたか本当に忘れてたかのどちらかだろう。それに、「行くしかないよね」とへらへら笑うザールと剣をぶんぶん振りながら行く気満々のカタリナの前で、「嫌だ」とは言えなかった。


 だいたい、ロッサがここにいるのは間違いなのだ。

 月影の国で“勇者ゴリラ”たるにふさわしいのは姉姫であり王太女であるルネのほうなのだ。自分じゃない。

 ロッサには魔物相手に火炎無双とかやれるほどの、姉のような火力はない。そもそも自分が修めたのは秘蹟であって魔法じゃない。自分は時の神の神官(クロノマンサー)であって魔法使い(アルカナマスター)ではないのである。

 母は人選を間違ってやいないか。


 だがしかし――破邪の国の伝承には「三国に同じ年に子が生まれたら気をつけろ。その子らが十六歳になる年が一番ヤバイ」とまで伝わっているが、今現在その通りのことが今起こっているのだとまで言われてしまったら、王族の端くれとしては行かざるを得ないだろう。


 そういう紆余曲折を経たロッサは、不本意ながらカタリナとザールと一緒にこの“試練の洞窟”へ加護を求めて入り……だが、無事に加護を得ることもできず、見事なダメ出しとともに入り口に戻されたところだった。



 * * *



「――やり直しって言われちゃいましたね」


 ザールがやれやれと笑う。

 カタリナは憤懣やるかたなしという顔でぶんぶん剣を振り回している。放っておいたらこのまま即再突入しそうな勢いだ。


「時間がかかりすぎとも言われたな」

「くやしい……一撃で仕留め切れなかったからだ……めちゃくちゃくやしい。先に殴るのはできたのに、どれも一撃で仕留め切れなかった……」


 ぷうっと頬を膨らませ、涙すら滲ませながら、カタリナはさらに剣を振る。

 振り回したからといって早々力が上がるわけでもないのに。


「つまり、制限時間があるってことですね。やり直しと言われたのですから、再挑戦も可能ってことでしょう」

「なら、制限時間ってどれくらいなんだ? 何回やり直しできる?」

「さあ……でも、疲れが取れてます。細かい怪我も治っているところを見ると、僕たちを殺す気はないみたいですね」

「なめられてるんだ。あたしたち、そのくらいしてやらないと突破無理だろって、なめられてるんだ。くやしい……すごくくやしい」


 なおも剣を振り回しながら、カタリナがえぐえぐと涙を流しはじめた。


「――とにかく、最低限の時間であの泉まで辿り着くのを目指しましょう。魔物は……この洞窟じゃ回避は難しいですね。できる限りの最速で倒せるよう、考えないといけません」

「そんなの、言葉で言うのは簡単でも普通に無理じゃないのか?」


 苦笑を浮かべるザールに、ロッサは顔を顰めた。


「だから、僕たち各々に何ができるのか、すりあわせをしましょうよ」

「すりあわせ? すり潰すんじゃなくて?」

「そうですよ。各々が勝手に戦うんじゃ無駄も多いですし」


 ザールがどこか真剣な顔で頷いた。カタリナも剣を止めて首を傾げる。


「まず、僕は秘蹟と魔法が使えます。森の神の神官(フォレストキーパー)魔法使い(アルカナマスター)の基礎訓練は受けてますから、回復と強化(バフ)、それから範囲への魔法と弱体(デバフ)の基本的なものなら一通り。

 ただ、肉弾戦は向いてないので勘弁してください」

「俺は時の神の神官(クロノマンサー)だから、回復と強化ならできる。あと、杖術と体術もある程度なら。カタリナほどじゃないが」

「あたし、武器なら一通り使えるよ! 一番得意なのは剣だし、先に殴って大ダメージならまかせて!」


 ザールはふむふむと頷いて、各人の得意なこと、使える魔法や秘蹟を聞き取って、懐から出した紙に書き付けた。


「――魔物はだいたい数匹まとまって出てきてました。そうですね。まずは僕が火炎魔法でなるべく多くを巻き込むので、それで撃ち漏らしたやつをカタリナとロッサが叩く……というのを、基本の動きとしましょうか」

「……あたし、先に殴りたいのに――」

「カタリナが強いのはここに来てからの戦いぶりでわかってます。なので、カタリナは僕が魔法を使った後、いちばんタフだと思った相手に行ってください」

「うん!」

「ロッサは、残った数が多かった場合はカタリナに加勢して、そうでなければ回復や強化、背後警戒をお願いします」

「わかった」


 とにかく、最速での到達を目指して、三人はがんばった。

 しかし、そうはいっても魔力は有限だし、使える魔法だって限られている。おまけに、この洞窟の魔物はやたら強い。外にいる魔物たちの何倍もタフで、力も強いのだ。“試練の洞窟”なんて、よくも作ったものである。


 何度も何度も入り口に戻されてはまた泉を目指す生活が始まった。

 何しろ、ここで加護を受けられなければ台頭する邪神教団を潰して邪神復活を阻めないというのである。

 過去に二度、魔王の出現を予言し退けた伝説の“勇者を育てる者”サーリスが遺した最後の予言だ。今、予言通り“月影の国”が襲撃を受け、三国から王子王女が集まった。ここを突破できなきゃ世界が終わってしまうというのも起こりうる未来なのだろう。


 入り口に戻されるたび、三人で振り返りと対策を考える。

 単純に協力して魔物を倒すだけではだめだ。弱点もうまく突かないと、最速で倒せない。いや、単純に力が足りないから、“レベラゲ”が必要だ――等々、三人で真剣に考えては再挑戦する。

 だんだんと動きもこなれ、魔力にも余裕ができはじめ――


 はじめてここを訪れた時は攻略に五日かかっていた“試練の洞窟”を、とうとう半日で踏破できるほどに、三人の戦いは洗練されていた。




『おめでとう! ゴリラ化初級編“試練の洞窟”、合格でーす!』


 何回も何十回も辿り着いては一瞬で飛ばされた泉のほとりで、ようやくなんとも言えない音楽とメッセージが響き、目の前に飛び石がせり上がった。

 この飛び石を使って、泉の中心に見える浮島へ渡れということだろう。

 三人は顔を見合わせ頷いて、カタリナを戦闘に泉を渡ろう……とした。


 ――が。


『そしてこの洞窟の最終試練行っくよー! 洞窟ボス最短突破、がんばって!』


 ざばりと水面が揺れて、ひときわ大きな魔物が水中から現れた。

 じろりと三人を睨んだ巨大な蛇の魔物は、その首をもたげ……


「全員、散開!」


 一瞬呆けた後のザールの叫びで、反射的に散った。


「こいつブレス吐きそう!」


 カタリナが、えいっと適当に拾った石を投げつけて、魔物の気を引こうとする。ロッサはすぐに、カタリナに防御の秘蹟を飛ばした。

 ザールは小さな石の壁を作り、そこに身を隠す。


「僕はここから魔法飛ばします。カタリナは泉に踏み込まないよう気をつけて戦って」

「わかった!」

「ロッサはカタリナの援護と回復を」

「了解」


 いくら“試練”と言ったって、この洞窟を作ったヤツは頭がイカレてる……ロッサはチッと舌打ちをして、強化の秘蹟(バフ)を立て続けにカタリナへと飛ばした。カタリナはしっかりと油断なく剣と盾を構え……そこへ、魔物のブレスが襲いかかる。

「カタリナ!」

「大丈夫、ちょっと冷たいけど大丈夫」


 先ほどと同じように盾を構えたカタリナが、返事を返した。その盾に霜がびっしりついている。


「ブレス、氷みたい」

「わかった」


 斬っては離れ、斬っては離れて魔物を陸上へとおびき寄せながら戦うカタリナに、今度は冷気への耐性を与える秘蹟を重ねる。ついでに、魔物に向かって弱体の秘跡(デバフ)も飛ばす。

 大丈夫、カタリナは力負けしていない。

 これならこの魔物も倒せるだろう。

 ロッサは手の長杖を握り直し、ザールへと視線を向けた。

 ザールも、同意するように頷いて――


『ざんねーん、時間切れでーす!』

「――はあああああ!?」


 数瞬後、洞窟の入り口に、また、カタリナの叫び声が響き渡っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ