結.二度目も大団円
「これでテル坊も次の王様かあ」
凱旋と同時に妹姫カタリナとの婚約が発表されて、テル坊は今パレードの真っ最中だ。ついでだかなんだか、カシェルも姉姫ロスマリナとの結婚を発表され、完全に退路を絶たれたうえでパレードに参列している。
流れるように外堀から埋め立てた姉姫の手腕は、さすが王族というべきか。なんだかんだ情がわいてしまったカシェル自身も、しっかり姉姫に絆されてるけどね。
城下町で一番高い鐘楼の上から眺めながら、あとで結婚祝いを贈らなきゃいけないなと考える。
何がいいだろうか。
いや待てよ? そういえば。
カシェルとロスマリナ姫の子供って、厨二病御用達種族のハーフエルフじゃない?
エルフ族は前魔王の時よりずっと前から何百年も引き篭もって久しい。ということはもちろん、ハーフエルフなんてとっくに絶滅した種族である。
ここで何百年かぶりのハーフエルフ爆誕か。
これはゴリラ育成しがいがあるのでは? それも、魔法系ゴリラに。
「サーリスさんはこれからどうするんですか?」
「――それがね」
ちゃっかりと着いてきて隣にいるガリルーに、私はにんまりと笑って見せる。
もちろん、考えていたのはさらなる続編、この世界を舞台にしたゲームである伝説三部作の、最終シナリオのことである。
「あと何百年か後に、また魔王……今度は邪神が復活して暴れるんだよ」
「邪神、ですか?」
「そそ。今って南北の大陸しか見つかってないけど、実のところ世界はもっと広くて、南北の外側にももっとでっかい大陸があってね――」
ガリルーは目を丸くする。外海の外側にさらに陸地があるなんて、この世界の人間にはまだ知られていないことだからだ。
「魔物も減ったし、しばらくは瘴気の影響もないだろうし、これから外海の外側の探索も捗るってことじゃないかな。それで見つけた大陸に、テル坊の子孫が進出して国を作るんだよ」
「それは……壮大な話ですね」
驚いていたガリルーが、キラリと目を輝かせる。
私の言いたいことがわかったらしい。
「その探索の先遣隊に紛れて、俺たちの冒険はこれからも続くエンドもいいかなって。最終シナリオって実は途中までしかやってないし、内容もものすごくうろ覚えだから、探索のしがいがあるだろうしね!」
「それは、とても楽しそうですね」
シナリオ云々については聞き流しながら、ガリルーはふむと考え込んだ。
勇者テル坊の冒険はここで終わってしまったが、勇者トレーナー・サーリスの冒険はまだまだ続くのである。
世界が広がるのだ。是非とも秘密基地二号とか三号とかも作らねばなるまい。
何しろ、次の勇者が冒険しなきゃならないのは今の何倍も広くなった世界なのだから。トレーナーとしては、世界の状況を確認しておく必要だってある。
眼下では、鐘楼の上の私たちに気づいたのか、テル坊がこちらに向かって手を振っていた。
さすが勇者ゴリラ。目もいい。
私とガリルーも大きく手を振り返す。
「テル坊の子孫なら、物理系ゴリラの英才教育いけると思うんだよね」
「たしかに、カステル殿は尋常じゃないくらい腕力と体力に優れてましたからね」
「次の勇者はたしか三人で、本来なら全員テル坊の子孫なんだけど、王族にカシェルが混じったじゃない? つまり、カシェルの子孫が魔法ゴリラ担当の可能性出てきたんだよね」
「魔法ゴリラですか?」
「そうそう。たしか勇者のひとりはかなりの魔法使いだったはずなんだよ。私、最強呪文連打で戦闘乗り切ってた記憶があるから」
「はあ……」
お姫様と結婚した勇者が世界を広げたのか、その子供たちが世界を広げたのかはうろ覚えだけど、「お姫様の子孫」という視点にすれば、カシェルの子孫にもワンチャンあるはずだ。
むしろ、テル坊の子孫よりカシェルの子孫が魔法ゴリラを担当するほうが納得できる。
「よっし、カシェルには魔法方面の英才教育させるよう言っとこ。で、テル坊には物理重要だから子供にも英才教育するようにって」
「――それは、おふたりの子がちょっとかわいそうな」
「大丈夫、カシェルもテル坊もやればできる子だったから、その子もやればできる子に育つよ!」
「そうですか……」
大通りをゆっくりと通り過ぎていくパレードを眺めながら、私はまだまだ続く冒険へと心を馳せた。
次章、「あの洞窟が越えられない」邪神復活シナリオの章となる、予定





