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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百年目の勇者と拐かされたお姫様

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13.魔王を討伐せよ!

 姉姫とカシェルのカップル爆誕(既成事実付)という報告は、姉姫自身から国王へともたらされた。やはり、こういうのはきちんと本人から聞いたほうがいい。第三者がうっかり教えてとばっちりを食らうのはいただけない。

 国王はちょっと遠い目をしながらカシェルの出で立ちを見て、ひとり納得しているようであった。姉姫の性癖は、父王にも知られていたらしい。


 そしてさらに忘れちゃいけないのは本命のラスボス、魔王討伐である。

 ちょっと遠い目をしたままの国王は、それでも役目を忘れず、さらなる使命としてテル坊に魔王討伐の命を言い渡した。

 無事遂行した暁には、妹姫を与えると宣言して――


「カタリナ姫は、モノじゃないと思います!」


 え、テル坊何言ってるの。

 そりゃ、人をモノ扱いするなという教育はしたけどさ。


「ちゃんと、カタリナ姫の意思を確認しないのはよくないと思います!」


 テル坊には、空気を読めという教育も必要だったかも知れない。

 面食らったように目をぱちくりさせる国王にがっつり言い返す勇者ってどうなのか……と思ったところへ、カタリナ姫がススッと前へ出た。


「大丈夫ですわ、勇者様。これはわたくしの希望でもあるんです」

「そうなんですか?」

「ええ。お姉様を助け出してくださっただけでも十分な実績ではありますが、そこに魔王討伐の実績が加われば誰も文句はないでしょう? わたくし、どうしても勇者様のお嫁さんになりたいのです」


 ぽっと顔を赤らめて、けれど謁見の広間中によく響く声で妹姫が言ってのける。

 さすがのテル坊も一瞬呆気にとられたけれど、すぐに笑顔になった。「なら、大丈夫ですね」と頷いて。


「それなら、魔王を倒してカタリナ姫様と結婚します」


 非常にあっさりと同意するテル坊に、私はちょっと驚いた。

 そりゃ、テル坊即位フラグは立ったけど、いざとなると本当にいいんだろうかと不安になってしまったのだ。

 何しろ底抜けのお人好しで、頼まれれば嫌と言えないテル坊である。

 テル坊の意思こそ大丈夫なのだろうか。


「カタリナ姫様はとってもかわいいうえにしっかりしていて、きっといいお嫁さんになると思うんです」


 ぽぽぽっと、妹姫の顔がさらに赤くなる。

 大丈夫だった。意外にテル坊もまんざらじゃなかった。国王も、この雰囲気に呑まれたのか安堵した表情になっている。

 私も安心した。


「で、では改めて……勇者ゴリラたるにふさわしいカステルよ。国のため、世界のため、魔王を倒して参るのだ!」

「はい!」


 こうして若干の紆余曲折を経た後ではあるが、テル坊はじめ私とカシェルとガリルーは玉座の国王に向かって一礼を返し、さっそうと城を旅立ったのである。



 * * *



『そうはいっても、グリトラちゃんの婿なんでしょ、魔王って』

「そう。妾の夫となるべきドラゴンが、今お前たちが魔王と呼ぶものなのだ」


 ゴリラソードの言葉に、グリトラが首肯する。

 ガリルーの支援を得て最短ルートを駆け抜けた我々は、再び南大陸と魔王城の島を結ぶ地峡へと戻っていた。

 姫を攫ったグリトラの住居は、ここから数日飛んだ先になる。

 ゆえに、今はグリトラも合流している。


「そうなんだよねえ。ただ何も考えずブッコロできたら楽なんだけどそうもいかないよねえ」


 不穏な単語に反応してグリトラがしゅうっと煙を吹いたが、すぐに深呼吸して気を落ち着かせた。

 倒すだけなら楽なのだ。何も考えずにテル坊のパワーで押し切ればなんとかなるだろうし。だが、「殺さず改心させる」というのはかなりの難易度だ。


「――HPゴリゴリに削って瀕死に追い込んだところで改心かしからずんば死かの二択を迫ればワンチャンあるかな」

「我の背の君は、格好をつけて死を選びそうだ」

「マジかー。格好つけに命賭けちゃうタイプかあ」


 大抵のヤツは、圧倒的火力で押し切られて無力感を味わえば心も折れると思うのだが、さすが魔王というべきか、そうもいかないらしい。心折れずに矜持で死を選ぶのはドラゴンらしいといえばらしいけど。

 こういうときに困る。


「うまいこと魔王の心を折ってそこにつけ込める作戦がほしいな」

「師匠、心ってどうしたら折れるんでしょうか」

「――雑にまとめると、“いかにがんばったところで何もかもが無駄”と思い知れば、大抵のヤツは折れて諦めるよね」

「何もかもが無駄、ですか」


 テル坊はピンと来ないのか、首を傾げている。

 テル坊にはあまり縁の無い感覚だからな。


「あー、プライド高いヤツなら圧倒的火力で瀕死に追い込まれたうえ自死もできない許されない状況に追い込めば、“好きにしろ”なんて投げやりになってどうとでも扱えるかも?」

「あまりやりたくはありませんが、一理ありますね。圧倒的な力を見せて覇権がこちらにあることを示したうえで強引に従わせれば……」


 カシェルが「ふむ」と考え込むと、グリトラが微妙な表情を浮かべた。ドラゴンの微妙な表情なんて貴重である。


「交渉力というか説得力にもよると思うけど、ガリルーとカシェルがいるからそこは心配ないかな。で、折れた魔王をグリトラが慰めて籠絡し、尻に敷くって方向を目指してみようか」


 生き物って、基本的に雌が偉いものだし、ドラゴンもきっとそうだろう。

 つまり、グリトラのほうが偉いんだからワンチャンある。きっとある。




 作戦といっていいのかどうかわからないが、とにかく目指す方向は決まったので、我々は魔王城へと突入した。

 途中、障害となるはずの魔物は、絶好調のテル坊の敵ではなかった。原作どおり……と言っていいのか、やはり前魔王の時よりも魔物が弱い。前々勇者のオリさん越えを目指して鍛えたテル坊なら、瞬殺か秒殺というレベルで弱い。

 テル坊のレベルが低いところで頭打ちになったら、という懸念はあったけれど、その心配はなさそうだ。

 さらに私とカシェルが援護するのだ。追い込むのも楽だろう。




「ほう……お前が今代勇者とかいう小僧か」


 前魔王の玉座があった、城の地下深くの広間に突入した私たちを待っていたのは、「たしかゲームでもこんなんだったっけ?」と考えずにいられない、漆黒のモヤモヤを纏ったドラゴンだった。

 あれ、二足歩行じゃないんだ? とシリーズのラスボスを思い出そうとするけれど、やはり前魔王以外、人外だったなとしか思い出せない。


「僕は勇者ゴリラ、カステル・ロアレスだ!」


 グリトラは私たちの背後、広間の大きな扉のあちら側に控えている。魔王はそれに気づいているのかちらりと視線を投げかけたが、すぐにテル坊に戻した。

 グルグルと喉の奥で唸るような音をさせながら、カステルを睥睨する。


「百年前の勇者の後継と名乗るのか、小僧。だが、我は魔物の中の魔物であり、すべての生き物の頂点に立つ、竜の中の竜だ。魔物の王にして竜の王たる我に、貴様のような虫けらのごとき人間が敵うなどと思い上がったか」


 私はガリルーとカシェルに目配せする。正面はテル坊に任せ、私たちは後方に散ってテル坊の援護に集中し、あわよくば魔王を弱体するという作戦である。


「――だが、おもしろい」


 シュウッと、魔王は黒い蒸気を吹いた。

 そろそろと移動しようとした私の身体が、ビシリと凍り付いたように動かなくなる。慌ててカシェルとガリルーを見ようとしたが、頭も動かない。かろうじて視線を動かせるだけで――カシェルとガリルーも似たような状況だ。

 声すら出ない。

 非常にまずい。


 おそらくは魔王の魔法か何かなのだろう。魔力中和ができれば消せるのだろうが、私は魔弓使い(フェイアーチャー)である。矢を(・・)射なければ(・・・・・)中和(・・)できない(・・・・)

 熟練の魔法使い(アルカナマスター)のように、指先だけで魔法を使うなんて器用なことはできないのだ。

 この場で動けるのは、今やテル坊と魔王だけである。

 女神もいないのにこの状況は、想定していなかった。


「勇者ゴリラを名乗る小僧、貴様に提案があるのだが」

「なんですか」


 提案、という言葉に、私はハッとする。これはもしやゲームで魔王戦をすると必ず迫られる、あの選択ではないのか。

 聞いちゃだめだ、と言おうとしてもうめき声すら出ない。


「よくぞここまで来たな、人間。それに、我と対峙しても恐れの片鱗すら見せぬその気概に、我は感心した。

 どうだ、我とこの世界を分かち合う気はないか?」

「分かち合う……つまり、半分こですか」

「そのとおり、半分こだ」


 ふむ、とテル坊が考え込む。

 考えちゃだめだテル坊。そんなことになったら、私とカシェルとガリルーの三人で、魔王とテル坊の連合軍を相手にしなきゃならなくなってしまう。


「半分って、どう分けるつもりなんですか?」


 だからそんなこと聞いちゃだめだー!


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