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番外編 坊ちゃんの災難な一日

坊ちゃんが見たいと有難いお声をいただいたので、いつか公開しようと思っていた番外編を。

初の坊ちゃん目線です。

夜会の日、ルチルが到着する前に何があったのか。


本編でもそろそろ登場させますので、引き続きよろしくお願いします笑

「明日の夜会ですが、私もスヴェンも同行(どうこう)しないことになりました。」



夕食後、サロンでティータイムを楽しんでいる僕に、ルチルが言った。


「は?」


宰相(さいしょう)様からのご厚意(こうい)で、お城のメイドさんが身の回りのお世話をしてくれるそうです。」


「余計なことを…。」


「坊ちゃん、くれぐれも皆さんにご迷惑のないようにして下さいね。」


「何だその言い草は。僕が誰かに迷惑をかけたことなんかあったか?」


「…。」


全く、本当に失礼な奴だ。


僕がいつもワガママ放題みたいな言い方をするなんてーーー。







「疲れた。ハーブティーが飲みたい。」



会議の後、王宮で()てがわれた部屋に戻った瞬間の僕の言葉に、メイド達は作り笑顔で応じた。


「ハーブティー?ですかぁ?」


小さな子供にするように、ゆっくり確認してくる。


「一度で聞き取れ。そうだと言ってる。」


ソファにドサリと座りながら言うと、3人のメイドが小馬鹿にしたように顔を見合わせているのが分かった。


「あの、ハーブティーとはなんでしょうかぁ?」



「はぁ。いつもなら、帰ると()れ立ての状態で用意されてると言うのに。何故(なぜ)同じ王宮にいるのに会議の終わる時間が分からないんだ。」


ジロリとメイドを見る。


「お前達が3人いる意味は何だ?」


メイドがムッとする気配がしたが、知ったこっちゃない。



僕が戻ったと言うのに出迎えも無ければ飲み物も無いなんて。



「で、ハーブティーは?」


「ですから、ハーブティーとは一体何でしょうか?

初めて聞いたのですが。」



一番気の強そうなメイドの言葉に、僕はため息をついた。


「自分の無知を簡単に(さら)け出すな。最近では王族も好んで飲むようになったのに知らないのか?お前達は自分の(あるじ)に関することに興味がないんだな。」



今度はハッとした気配のメイド達を尻目に、僕は探し出した礼服に着替え始める。




こいつらが僕の担当になったことに不満を抱いているのは最初から分かった。


会議の前に一度通されたこの部屋で、各々(おのおの)から挨拶を受けたのだが…。


僕を見て、全員が(しばら)くフリーズしていた。


まぁ良くあることだ。


しかし慣れてくると、


「何で私がこんな子供に?」


態度からも目線からもその思いがガンガン伝わってきた。



実際、運び込まれた荷物を片付けた気配も無い。


この後が夜会なのだから、上着を出して吊るしておかなければ(しわ)になると言うのに。



「まぁでも、お前達が自分の主を(かろ)んじているならば、僕に対する無礼(ぶれい)な態度も(うなず)ける。僕に対する態度が、そのまま王族に対する気持ちの現れと言うことだ。」


僕の言葉に、顔を青くしたメイドが口を開く。


「あ、あのぅ。大変失礼なのですが貴方(あなた)のお名前は…。」



自分が担当する客人(きゃくじん)の名前すら知らずにいたのか。


「キール=クラリアム=エヴァンスだ。最も、お前達がこの名前を聞くのも今日が最後になるだろうがな。」



ウンザリしながら言うと、今度は真っ青になった3人が口々に無礼を詫びてくる。


「も、申し訳ございません。エヴァンス公爵様とは知らず…‼︎」


「た、大変な失礼をお許し下さい!」


「あ!お()し替えのお手伝いをさせていただきますね!!」



大慌てで着替え中の僕に触ろうとするその手を払い退()ける。


「僕に触るな。」



僕が子供だからと言って舐めた態度を取っていた人間が、身分を知った途端に(へりくだ)って()びてくる。


そう言ったシーンはこれまで幾度(いくど)となくあった。


だから僕は他人が大嫌いだ。



氷ついたように動かなくなったメイド達を横目に、僕は着替えを終えた。


うん。なかなかだろう。


あとは上着を着るだけだ。


うん…。まぁ…ちょっと手を加える必要がありそうだけど。




あぁ、全く何もかも宰相のせいだ。


アイツが変に口出ししてこなければいつも通り僕の側には…。




「…チル……」




メイドの一人が震えながらも反応する。


「な…何か…?お手伝いできることは…ご、ございますでしょうか…。」



「ああ。一つだけある。」



僕の声は自分でも分かる程に冷気を帯びていた。



「今すぐにエヴァンス家のメイドを連れて来い。1時間以内に来なければ、今日の夜会は辞退すると宰相に伝える。勿論(もちろん)、その理由もな。」



先を争うように部屋を飛び出して行くメイド達を見ながら、僕は考える。



当家(うち)の使用人達のことだ。


恐らくいつでも対応できるように準備は済んでいるだろう。


1時間もあれば王宮に着くはずだ。



僕はソファの背に頭を預け、脚を投げ出す。




あぁ、早くハーブティーが飲みたい。




それと……。






「遅い。」


ジャスト1時間で現れた当家(うち)のメイドは、開口一番(かいこういちばん)の僕の言葉に呆れた顔をした。



だけど、その顔の裏にある気持ちを僕は読み取れる。



僕の前に膝をついて、無事を確認する様子からも。






さて、温かいハーブティーを飲んだら湯浴(ゆあ)みをしよう。



アロマの香りがする礼服に身を包んだら、仕方ないから夜会に出る。





終わって部屋に戻ったら、アイツはきっとこう言うだろう。





「坊ちゃん、お帰りなさい。」

お、お城のメイドさん達…。笑


宰相様がわざわざこの3人を坊ちゃんの担当にしたのには、何だか訳がありそうですねぇ。


次回は本編に戻ります。



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