銃弾
頭で考えると、何も間違ってはいないように思える。だけれど、このままじゃいけないような、もやもやとした想いが抜けない。自分の立ち位置が、行き先が信じられない。もっと、別の何かが自分にはあるはずだ。何の根拠もなくそう思ってる。このまま、時間が流れるのは… 喪失だ。そう。私は大切な何かを失い続けてる。……取り返しがつかない。
――私は真っ暗な部屋の中にいた。
その部屋が何処のなんという場所なのかは分からなかった。しかし、にも拘わらず、何故だか私はこの場所を知っていた。
その場所にはたくさんの人がいた。
父親、母親、友達、先生、兄弟、姉妹…
鬱陶しい気分。
コトリ。
目の前に、突然、ピストルが置かれた。暗がりの中で、薄っすらと黒光りに光を返しているのが分かる。
誰かが言った。
『君にそのピストルで、ここにいる人達の誰かを撃つことができる権利を与えよう。その人物を撃ちぬけば、君は、君のその世界を変える事ができる。もちろん、間違った選択をすれば君は何も変える事はできない』
撃ちぬく?
『そうさ。君の、その世界を間違ったものにしている、その元凶を撃ち抜くんだ。その邪魔者を殺してしまえば、君は、君の世界を変えられるんだ。
嫌なのだろう? 今の自分の世界が』
私はそう言われて、部屋の中にいる人達を見回してみた。
父親、母親、友達、先生、兄弟、姉妹…
鬱陶しい気分。
誰かを撃つ?
『そう、ここにいる人間は誰でも撃っていい』
ここにいる人間は誰でも。
私はそう反芻すると、その結論に当たり前に辿り着いた。
誰でも、撃っていい。撃ち殺していい。それなら、その人間は一人しかいない。私はピストルを手に取った。そして、銃口を撃ち殺すべき人物に向け、引き鉄を引く。
ダンッ
銃声が響く。
“わたし”が倒れる。
そう。
……撃ち殺したのは、当然、自分自身だったのだ。今の自分の世界を変える為に殺さなくてはいけないのは自分自身。それ以外に、世界を変える手段はない。そんなのは、当たり前の事実であるはずだ。
目を開く。
そこには、いつもの私の現実世界が広がっていた。でも。