祈りが通じた瞬間
風穴を塞ぐ気にはならなかった。もしミスって全部燃えたら。
俺はそのまま寝て。いつもの時間に目覚めた。
ニーナに叩き起されるつもりだったのに。拍子抜けだ。
手際良く支度をしてニーナの家に来てみた。
コンコンとノックしてみる。ガチャリと出てきたのは本人。
『おはよ、ウィズ』
出てきたニーナは制服姿でニコリと微笑む。
「起きてたのか」
「そうだよ、悪い?」
「心配になったんだ」
そっかそっかって言いながら出てくると青いハンカチで包まれたモノを差し出してきた。
「これは?」
「お弁当!」
両手に収まるちょうどいいサイズのちょうどいい重さ。
「楽しみだな」
「もっと早く来てくれたらなあ」
ニーナは時間が押しているのかポツリと呟いて俺を外に誘う。
「歩いて歩いて」
「押すんじゃない」
酒場までニーナと色々話しながら歩いた。夜は晴れにして欲しいとか客の愚痴とか。
愚痴の大半はグレイのことだ。
「本当に腹立つ! ウィズがちゃちゃっとやっちゃえばいいのに」
「できないんだって」
「するつもりは?」
「ない」
ほら。ニーナは意気地無しってそっぽを向く。
「せめて優しいって言ってくれ」
ニーナは酒場の前で足を止める。
「じゃあ、お弁当の感想教えてくれる?」
「もちろん」
「優しく、言ってよね」
ニーナは早足で酒場に入っていく。
優しく言うってどういう意味なんだろうか。
俺は食欲を抑えて練り歩くことにした。
理由は簡単。弁当の量を計算すると昼頃に食べることで夕食をスルーできると考えている。
『お願いします、お雲様どうか……』
祈る声が聞こえて足を止める。
街の一角で草葉を振って祈る女の人が居た。
「なにをしているんだ?」
俺は近くで見守るオッサンに声をかけた。
『晴天を隠して欲しいというご老人の期待に応えようと牛の乾燥肉を生贄に儀式を行っている』
あの女の人は見覚えがある。
「そうか……」
祈るなんて適当なことを言うべきじゃなかったな。
『……う、ウィズ様でしたか、失礼なことを』
オッサンは俺を見て申し訳ありませんって頭を下げる。
俺は荒くれ者と認識されているのかもしれない。
「気にしないでくれ、それで変化は?」
「ありません、雲ひとつありません。当然失敗でしょうね、私達のような生半可者がウィズ様の真似なんてできやしません」
ははは、とオッサンは自虐するように笑った。
「……俺は雲が太陽を隠すことにこの弁当を賭ける」
「私は、隠せない、に命を掛けますか」
すると瞬く間に雲が押し寄せ、太陽を包み隠して周りの人を『おお!』と驚かせた。
「そ、そんな……」
「祈りは通じたようだ」
俺は弁当を抱いて儀式が終わる前に逃げる。
「し、死んでお詫びを」
「最初から弁当をあげるつもりがなかったんだ、忘れてくれ」