成功の前には失敗がある
成功の前には失敗がある。失敗の前には反省がある!
夕方頃まで成功と失敗を繰り返した。
段々と失敗が減っていい所で切り上げて、ぐーって鳴る腹を抑えて街に帰ってきた。
『ウィズ様だ!』
石剣を背負った少年が嬉しそうに駆けてくる。
空腹と少年を天秤に乗せてどうするか考える。
「ただいま、みんな困ってるのか」
いつもと雰囲気が違う。何かがこの街であった。
「困ってる? 僕は困ってないよ」
「言い方を変えよう、いいことがあったのか?」
「あ! あったよ! 勇者様がダンジョンを攻略するって広場で演説してたよ! 馬に乗った勇者様、かっこよかった!」
馬に乗ったってことは出発もしたようだ。
「ウィズ様は行かないの?」
「行かない、向いてないから」
「やった!」
元勇者としては、喜ばれるのも複雑な気持ちだ。
相手は純粋なだけなのに。
「じゃあな」
「うん!」
少年と別れて酒場へ。
端の席について待つ。隣の人に距離を空けられた気がした。
「注文伺うよー」
ニーナを一瞬だけ見てメニューを考える。もう一度ニーナを見た。
「制服を汚したのか」
酒場の制服じゃなくて緩い私服で俺の前に立ってる。
「違うよ」
「酒で汚れるかもしれない、制服の方がいい」
「ウィズが来るまで働くってオーナーと賭けてただけ、このまま一緒に帰れるよ」
「悪いが」
俺の両肩にニーナの全体重がのしかかる。
魔法使いの俺は簡単に身動きが封じられてしまった。
「……実は焦ってるんでしょ、一人になっちゃったから」
「否定できない」
「だから、ね」
酒を飲もうと思ったが、今度にしよう。
「いつもの。早く食べないとな」
ニーナの手を握って払う。
「ありがと」
しばらくしてやってきたパンを口に運ぶ。待ってくれたニーナと酒場を後にする。
誰かと街を歩くのは久々だ。
「いつも気になってるんだけど、お金ってどうしてるの?」
「親が不自由ない程度に工面してくれてるんだよ」
平和になる前に一抹の自由を築いてくれたのは俺の親。魔法使いとして尊敬している。
『よかったあ』
ニーナは羨ましそうな顔をする訳でもなく、ホッと息を吐いた。
「そうか?」
「お金がないからトーストで済ませてるのかなって思ってたから」
「ああ、それはな……」
途中でウィズ様って声をかけられる。昨日のおばちゃん。
「今日もおにぎりお持ちしましたよ」
ニーナに気づくと申し訳なさそうに一瞥して俺におにぎりを渡してくれる。
「助かる」
「彼女様と御一緒にどうぞ、それでは」
昨日のおにぎりはめちゃくちゃ美味かったから嬉しいな。
「……こんな感じでたまに食べ物を貰うから食べきれるようにしてるんだ」
ニーナは何も言わずに顎を指で撫で続ける。
「どうしたんだ?」
「あ、べつに! なんでもないよ!」
大袈裟に手のひらを振って笑い直すニーナ。
「そうか?」
「ウィズはそこまで考えてたんだなあって、私も負けてられない!」
ニーナは何と戦ってるんだ?
「明日早起きして、家に来た方が勝ちってどう?」
「仕事はどうする?」
「もっと早起きすればいいんですー、じゃあね!」
そう言ってタッタッと走っては見えなくなる。
起こされるのは勘弁だな。
そんなことを思いながらおにぎりを齧りつつ帰る。
対策として家の鍵を閉めてやればいいんだ! 天才だ!
『最悪だ』
花壇で練習した時に風穴開けたんだった!