強者と弱者
『早く行きましょ、さっさと』
メイリアは少し進むと手で招いて行進を誘う。
「えー」
「ウィズもそろそろ飽きてきてる」
「それはないですね」
「どうして? 見てて飽きるわ」
「メイリアには分からないと思いますけど、ウィズさまは頬ずりしてくれてます」
肉と肉の隙間を進むように首を振っている。
「ダメよダメ、甘やかしすぎ!!」
メイリアはウィズの脇に腕を通して抱えるように引き下がる。
「かわいそうなことしますね」
「はあっ?」
名残惜しそうにユキへ伸びていくウィズの手。
「ウィズはこんなやつじゃないから! 悪用しない!」
手を没収すると代わりにメイリアが指を突きつける。
「悪用しようとしてきた人が変なこと言ってます」
「ウィズもなんか言いなさい」
メイリアを見ながら口を開く。
『悪魔め』
「あ、ああ、そう、そうよ? 私は悪魔! 仲間のことなんて知らないわ!」
ウィズを解放するとメイリアは足音を強く鳴らして先に進む。
「これ以上はまずいので、頑張りますよ」
ユキはウィズの手を握ってメイリアを追った。
三人並んでまた広い部屋に入る。先程より天井は高くない。
「ただの部屋ね」
「宝箱ですよ! 金銀財宝が!」
そう言って踏み出したユキの数歩目がカチリと鳴り響く。
ガシャンと部屋の入口と出口が消える。
「また罠ですか……」
「それよりも構えて」
メイリアは細身の剣を片手だけで順手に持ち直して構える。
左右の壁から飛び出るようにオークが出る。
「ウィズ、やれそう?」
「やるしかない」
「じゃあ任せた」
メイリアは右から迫るオークを全て引き受ける為に走り込む。
ウィズも干渉することがないように、距離を取るために詰める。
ユキに守られていたウィズが今度は守る番。
「僕に任せてほしい」
ユキをしゃがませると氷の空間に幽閉する。
「えっ?」
「大切だから」
その場でオークと対峙したウィズは魔法を放つ。
右手に火の玉を作ってぶん投げて無理だと知れば火力を上げる。
「なんか違う」
オークに詰められると風で戦いを拒否する。
これならどうかと最大限の力を込めて足元に差し向けた手のひらを大きくあげる。
『ッッ!』
吹き上がった火柱がオークを燃やし尽くす。
これなら行けると手応えを感じるウィズ。
「後ろ!」
ユキの声に振り返ったウィズがオークの木の棒に吹き飛ばされる。
さっきとは比べ物にならない衝撃。受け身を取って足元で勢いを削り取る。
立て直したウィズを無視して氷の塊にオークが集まっていた。
ガシンガシンと振りに合わせてダメージを受けた氷に亀裂が走る。
「こわいです……ひいっ」
「さ、させない」
手を向けたウィズは魔法を放とうとして放てないことを知る。
「出ろ、出せ!」
手が揺れる。何も現れない。
せき止められたように目の前が変わらない。
「どうして」
メイリアに手を向けるとオークが大爆発を起こす。
その衝撃は遠くに居るウィズすら仰け反らせるほど。
「ウィズさま、助けてください!」
ウィズは気づいた。このまま焦りの魔法を放っていたら、何もかもが消えていたことに。
胸が苦しくなる。手が降りる。また降りた手が甲に重なる。
魔法が、怖くなる。
「助けれない」
声が震える。氷はいつ壊れてもおかしくない。
「あんた! なんとかしなさいよ!」
「……」
「ああもう!」
メイリアは灰色に染めた腕を支点に跳ね立つ。落ちたままの剣を拾わずに速度だけを求めて走る。
時間は残されていない。
『フェニックス』
メイリアは鞘の柄を逆手で引き抜いて手を開く。
燃え盛る刃が足りない刃を補う。
空中で順手に握り直す。踏み込みながら両手に持ち直す。
『オーダー』
斜めに振って下ろされた炎は鳥の如く。
何かを焦がして飲む鳥は火の如く。
ウィズの眼前まで突き進んだ鳥は笑うように上へ飛び。
消えた。




