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飴とムチ使い




 下へ下へ降りていく中でユキを追う形の二人。ウィズはそんな背中に声をかける。


「僕が悪かった、もう一度チャンスを……」


『ですって、メイリア』


 ユキはのらりくらりと言葉を避ける。


「えっ、私?」


「そうですよ」


「じゃああげる」


「では捨てます」



 砂が滲む音が響く。ウィズはメイリアを見た。


「うわ……」


 メイリアは思った、助けてほしそうだと。


「結果残せば、チャンスあるんじゃない?」


「そうする」


 降りたあとは細い道が続く。水の中にある空間とは思えない。



「あなたは配慮が足りませんね」


 ユキは人差し指を立てて光を灯す。上達の火。


「私が躓いても、いいんですか?」



「そ、それはよくない」


 割り込むように前へ出たウィズが見えなかった石に引っかかる。


 コケたウィズの音にユキが振り返った。


「大丈夫ですか?」


 屈んで様子を見ている。


「少し痛い」


「……立てまちゅかー?」


 スッと伸びたあやすような手をウィズは恥じらいもなく握る。


「ウィズの扱いに慣れすぎじゃない?」


 記憶がないうちにあやつり人形にしようと思っていたメイリアにとって理想に近い形だった。


「かわいいので」


「何が?」


「反省しててかわいいじゃないですか、私の手を握ったまま腕ふって歩いてるんですよ」


 ウィズは繋ぎを解いて腕を振らなくなる。


「ほら、かわいいです」


「よく分からないわ……」


 しばらく進んで広い空間に入る。無駄に天井が高い部屋。


「ここってなんなんですか?」


「先にまた道があるようね」


 ちょうど部屋の真ん中でカサリと背後から聞こえた三人は振り返る。


 足首サイズの黒い蜘蛛が地に足つけていた。



『走るわよ!』



「な、なんでですか!?」


 メイリアはユキの手を引いて道の方へ駆けていく。


「ウィズも早く!」


 遅れて走り始めるウィズ。何が起きてるのか、走りながらメイリアに問う。


「蜘蛛よ、天井で私達のことを待ってた!」


「もう居ない、走りたくない」


「居るわよ! 見てみなさい!」


 走りながらウィズが見上げる。天井は低くなっていた。


 いや、それは天井ではなく蜘蛛の面々だった。


 驚いたウィズがつま先の石に、また吹き飛ばされる。出口までまだある。


 メイリア達は既に安全な細い道でウィズを待っていた。


「立ちなさい!」


 危機的状況に慣れていない今のウィズにとって焦りはミスを誘う。


 潤滑油のように足の力が無駄に逃げる。ザラザラ虚を蹴る。


「ウィズさま、魔法ですよ!」


 魔法を使わずに立ち上がっても今更。蜘蛛の位置を考えるとウィズの速力では飲み込まれる。


 そこから魔法を使うという発想もない。


「もっと早く声をかけてたら……」


 助けに行こうとするメイリアをユキが静止する。



『ウィズさま』


 ユキは手を前に出してウィズの近くまで水を敷く。



『思いっきり滑ってください』


 出した手を引いて握り込む。ウィズが足をしならせて飛び込む。



 氷は波のようにウィズより少し先を進んで先導する。追い風が速度を更に上げる。


「うおおっ」


 ユキを横切ったウィズは速度を転がることでバタバタ殺していく。


 少し立ってようやく静かになる。


「……大丈夫ですか?」


「ちょっとは配慮しなさいよ」


「風で受け止めようと思ったんですが、その分の魔力がなかったので避けました」


「助ける気があった、みたいな口振りじゃない? 受け止めようともしてなかったくせに。ああ、可哀想なウィズ」


「助けただけで十分ですっ」


 ユキは手を後ろに組んでズタボロのウィズに近づいた。


 なんとか膝で立ってユキを見上げる。


「助けてくれたおかげで、痛くなかった」


 ウィズの左手が肘を隠しに伸びる。


「らしいですよ? 聞こえましたか、メイリア」



 ユキはスカートを摘んで膝をつくと丈をたくし上げて優雅に正座する。



 スカートの丈を左手で抑えながら細く膨らんだ太ももを右手の指先でトットっと叩く。



「で、ユキはなにしてるの」


「来てもいいんですよ、ウィズさま?」


「あんたねえ、そんなことでウィズがゆるすわけ」


 放物線を描くように頭がユキの膝元に吸い込まれていった。


「素直ですね」


 撫でながらユキは微笑む。


「ウィズ、もしかして許したわけじゃないわよね? ユキのせいでコケたし、こんなことになったのよ?」


 ウィズは顔を上げてメイリアを見る。


「答えたら、もうお膝は終了です」


 人差し指を立ててシーっとユキは息巻く。吐息に撫でられて顔を埋め直す。


「答えなさい!」


 ウィズにとって、ムチムチと頬に張り付いて押し返すような弾力感はメイリアより興味があった。


 しかし、恩もあった。助け舟の数々を考えると無下にはできない。


「せめてアクション! ジェスチャーよ!」


「それくらいはいいですね」


「なに? それくらいってなにかしら?」


「ウィズさまに奥さんができたら浮気なんてさせませんから」


「別にそれくら、おいお前舌出しやがったわよね? 赤子の手捻った程度で舐めんな」


「あれ、メイリアがいませんね」


 ユキの唐突な言葉。


「は、はあ? 居るじゃない!」


「いえ、前に居るのはコワイア様ですが」


「調子乗りすぎ……!」


 拳を握るメイリアをよそにウィズの手が動く。



「まあ、ウィズさまは本当にかわいいですね」



 ユキの腰に腕を回してギュッとホールドする。



 離れないという確かなジェスチャー。




『するならせめて私に有利なアクションをしなさいよ!』




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