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一人が三人




 ウィズは大きな湖の前で足を止める。


『ここ』


 水面の前でユキが屈む。首を傾げてウィズを見る。



『ぶん殴っていい?』


 メイリアの手先は人差し指の折りを合わせて丸くなる。



「冗談のつもりで」


「早くしなさい」


「場所はここ」


 ドンッとウィズの左肩に拳が刺さる。衝撃にグラグラ後ずさる。


『暴力反対です』


 間に入ったユキはメイリアを睨んで守る。


「今は見えない、だから見せる」


 ウィズが手を置いた瞬間、風がザワつく。



『掻き出す』


 突風が水を割くように切り抜く。手刀を加えたように水が上に跳ねる。



『止める』


 ウィズの瞳が白昼に染まる。高波の龍が霜に攫われる。


 真上に逃げた水が最後の一滴までピキピキ滞る。



「メイリアにどつかれたくないのは僕だけじゃなかった」


 ウィズが示した所は湖の底。不自然な盛りがある。


「あ、あれがダンジョンって?」


 ウィズはコクリと頷く。


「それが本当だとしても、どうして分かったの? 地図がないのに」


「自分自身が優れた人間ってことは何となくわかった、その優れている人間にしかできないことを実際にやった」


「ユキのことバカにしてる?」


「メイリアをバカにしてる」


「あんたねぇ……」


 メイリアの手が伸びる。


『僕のことをどつくのは、ダンジョンが終わってから』


「ぜったい殴るわ!」


 ウィズは水を敷いて氷の階段を作りながらダンジョンの近くへ降りる。


 盛られた山の泥を剥がす。下に続く階段が出てきた。


「本当にあるわ……」


「僕も驚いた」


 進もうとするウィズをユキは引き止める。そのまま身を寄せて、唇を当て逃げた。


 頬の柔らかい熱っぽさに気づく。手を重ねた頃にはもう遅い。


『しゅ、祝福です』


 ウィズに背中を向けて何もなかったように振る舞う。



「僕からも」


 ウィズはメイリアに詰め寄り、されたことを忠実にこなした。


「……は、ああっ!?」


 されるとは思っていなかったメイリアは二人を交互に見る。


「メイリアが一番強いから」


「明らかにあの流れは私じゃないわ!」


「祝福はみんなにしないと。最後にメイリアがユキ様にするんだよ」


 メイリアは小声で祝福とかじゃないと諭す。


「祝福じゃ、ない?」


「見てみなさいよ……」



 振り返ったウィズをユキは見返さなかった。



 代わりに言葉を返した。




『貴方のせいで息苦しいです』




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